お題&テーマ創作

□シリウス×アクア好きさんに20のお題
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リボン

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―確か、ここにあったはず。

アクアは目当ての引き出しを開けて、こくりと頷いた。
そこには思ったとおりの、切れ味の鋭そうなナイフが在る。
鈍く光る銀色がよく手入れされている事を物語っていた。
アクアは満足してそのナイフを手に取ると自分の髪を一房つかむ。
そして、一息に刃を滑らそうとした。

―がしっ!!

途端に後ろから、力いっぱい両手を捕まえられてアクアは目を瞬かせる。
「…何してるんですか」
押し殺したような低い声が降ってきて、少女は顔を上げた。
両腕を掴まれているので自由は利かないがシリウスの淡い金髪が目に入る。
「見て分からない?」
「何かものすごく恐ろしいことをしようとしているようには見えます」
相変わらずの淡々とした物言いにシリウスは眉根を寄せた。
まるっきり大したことではないと言わんばかりの態度だが、それで済まされるような状況には見えない。
「髪を切ろうとおもって」
「何でそんなことするんですか!」
「前髪。のびてきて邪魔なんだもの」
思わず声を上げたシリウスに、あっけらかんとした答えが返る。
彼は思いっきり床にのめり込みそうになった。両手が空いていたら絶対頭を抱えていたところである。
辛うじて気力を振り絞り、一応突っ込みを入れてみる。
「…その割には何か違うところを切ろうとしてませんでしたか?」
「きれあじちぇっく」
これまたあっさりと、何でもないことのようにいう少女にシリウスは心底脱力して、とりあえずナイフを取り上げしまい込むと深々とした溜息をついた。
「あのね、アクア。それなら誰かに頼めばいいでしょうが」
あなたが自分でやろうなんて無謀ですよという彼をアクアは上目遣いに見る。
「皆忙しそうだったんだもん」
「君が無茶をして何かあったら、その方が仕事が増えるよ」
もう一度溜め息をついて、シリウスは彼女の顔を覗き込んだ。
「前髪だけなんですね?」
「そのつもりだけど」
「なら、いいです」
そう言ってシリウスは館の者を呼び、アクアの髪を切るために侍女達を集めるようにと言いつけた。
そんな彼を見上げて少女は首を傾げる。
「前髪の他は、きっちゃだめなの?」
「もったいないでしょ。こんなに綺麗なのに」
不思議そうなアクアにシリウスは肩を竦めるしか出来ない。
相変わらず、自分の容姿に自覚が無いというか、執着が無いというか。
すると彼女は意外にもあっさり納得して頷いた。
「そうね、もったいないわね」
「でしょう?」
シリウスの言葉にアクアは再度頷いて、
「どうせばっさりいくなら修道女。うん、これぞじんせいのだいごみ。どらまてぃっく・ふゅーちゃー」
更に恐ろしい事を言いのける。
「何!? 君、尼(シスター)になるつもりなの!?」
「いや、それは…未来は誰にも分からないし」
流石にぎょっとしたシリウスが素っ頓狂な声を上げると、変わらぬ無表情で、アクアはさらりと応えた。
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