シリアス長編創作
□絡まない、視線
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―セイリオスとシオンがディアーナの元を訪れたのは空が夕日に彩られる頃だった。
「…気分はどうだい? ディアーナ。」
「ええ。大丈夫ですわ、お兄様。」
結局あれから二度ほど入浴させられたディアーナは、忠実な侍女達によってしっかりと床に縛り付けられていた。
彼女がいくらもう平気だと言っても聞いてもらえず、ディアーナは仕方無しにベッドの上で退屈を持て余していた。
やって来た二人に笑顔で答えたディアーナは、本当に元気そのものでセイリオスはほっと胸を撫で下ろした。
「いいかい、ディアーナ。今回のことで懲りたろう? もう勝手に外に行くのは止めなさい。いいね?」
「は〜い。さっきも、皆に同じ事言われましたわ。」
「そうそう。大人しくしてるのが一番だぜ、姫さん。」
兄に注意されて小さくなるディアーナに笑うシオン。
いつもの、三人のやり取り。
…でも何故かその時、ディアーナはふと違和感を覚えた。
「どうしても行きたいってんなら必ず誰か護衛に付けるこったな。」
「じゃあ、シオン来てくださいます?」
「俺? うーん、どーしよーかな。」
「止しなさいディアーナ。こいつは別の意味で危ない。」
「おーお。言ってくれるねぇ、殿下。」
「本当の事だろうが。」
「…ま、確かに否定はしないがな。」
…言って、笑う声。いつもと同じ声。
ディアーナは内心で小さな焦燥を感じる。
どうしてだろう。何が違うんだろう。いつもと。
いつも。―そう、いつもなら…。
「ディアーナ。どうしても外に行きたくなったら私に言いなさい。視察という事で時間を取ってあげるよ。」
「えー。それじゃあ、つまりませんわ。」
「…いい加減にしなさい。お前は少々遊びすぎだ!」
続く兄のお小言はもはやディアーナの耳には入っていなかった。
―シオンが、おかしい。
そう感じたディアーナは兄の後ろに控える彼の方をそっと見詰める。
…遠い。彼と自分の間がひどく離れているように思えた。いつもなら、あんな所で控えていたりはしないのに。
―いつもなら。そう、いつもなら。
もっと近くで彼女の顔を覗き込んで、その琥珀の瞳を悪戯っぽく煌かせて。
楽しそうに笑って、最後には必ずよしよしと彼女の頭を撫でていく。
それなのに、今はどうした事だろう。
顔はこちらに向けているのに、ちっとも目が合わない。
こちらの方を見ているはずなのに、どこか遠くを見ているようなそんな瞳。
笑っているのに笑っていないように思えるのは何故だろう。
(…シオンは、人と話す時、目を合わせないのはいけない事だって言ってましたのに…)
今回のこと、彼はひどく怒っているのだろうか。
不安げに揺れるディアーナの目線に応えるものは無い。
…結局その日、最後まで二人の視線が絡む事は無かったのだった。