パラレル創作

□Dose it follow that?
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―テスト期間がやってきた。



大抵の生徒には憂鬱な時期。

それはこの三人にとっても変わらないが、今回はいつもよりその度合いが高いように思われた。

理由は簡単。

三人それぞれが頭の中に拭おうにも消えない人物の面影があるからだった。



(っとに、もう。キールなんか知らないんだから)


(あの人とはもう二度と会いませんように!)


(…私…。もしかして、やっぱり…)



三者三様の吐息を洩らしつつ、三人はテスト用紙に向かう。

気持ちが落ち着かなくて、頭の中がぐちゃぐちゃしていて。

覚えようにも単語は素通り、解こうにも問題はただ目に映るのみ。

その結果は…まぁ、訊いてくれるなといった所だろうか。







「うーん、あたしこっちかなー。」

「そうですの? わたくし、メイにはこっちの方が似合うと思いますわ。」

「あ、それ? いや、あたしもそれ、目はつけてたんだけどさ。何かあたしのイメージじゃないじゃん?」

「そんなことありませんよ。きっと似合いますよ。」

テストから開放された後、三人はディアーナの家に集まってクリスマス・パーティーで着るドレス選びに勤しんでいた。

サークリッド家の恒例のパーティー。

ヘタなものは着ていけないと悩んだシルフィスが芽衣にと相談して、それもそうだと思った彼女がどんなものがいいかとディアーナに尋ねたのだ。

「うーん…。わたくしは、どれにしましょうかしら…。」

「どれどれ? 候補どれ?」

「一応、これとこれと…こっちかしらと思ってるんですけれど…。」

「ええ〜。何か、おとなしいじゃん。…これ!! あたし的にはこれがお薦めだな。うん。」

「え、ええ!? だ、だって…こんなに大人っぽいのわたくしには変ですわ!」

「何言ってんのよ、ディアーナ。あんた元がお人形さんみたいなんだから大抵の服は似合うのよ。似合わないって思い込んでるだけだって。」

「私もそう思います。きっとガラッと雰囲気が変わると思いますよ。」

「う、う〜ん…。」

ディアーナは床に広げられたカタログの一つを手にとって唸った。

周りには他にもデザイン画や実際のドレスなどが所狭しと広げられている。

ディアーナが、どうせなら三人で選ぼうとサークリッド傘下の服飾メーカー全てから取り寄せたのだ。

「私はこれにしようかと…。」

「あ、いいね。似合うよ。」

「ほんと! すっきりしていてすごくシルフィスに合うと思いますわ!」

熱心に誉められてシルフィスは照れたように笑った。

『どれでも気に入ったドレスをプレゼントする』と言われて、最初は遠慮していたシルフィスも、芽衣の、『ディアーナの友達のあたし達がまともなカッコしてこなかったらディアーナん家の面目丸つぶれでしょ。』というセリフに頷いて一生懸命良さそうなものを選んでいる。

「はあ〜…。わたくし、決まりませんわぁ…。」

「そーね…。いざとなると目移りしちゃうよね。」

やがてディアーナが疲れたように本を投げ出すと芽衣も小さく肩を竦める。

「このドレスにしないんですか? メイの言う通り、とても似合いそうですけど…。」

「でもわたくし…、お兄様のご意見も伺わなくてはいけませんし…。」

「はぁ!? 何でよ?」

溜め息と共に紡がれたセリフに芽衣が驚愕の叫びを上げる。

「だ、だって…。いつもそうですの。お兄様が必ず最後には自分の所に見せにくるようにって仰るんですわ。」

「…最終チェックが入るわけ〜!?」

「はいですわ。」

「ううむ…。それだとこのドレスは却下くらいそうよね〜。」

芽衣の選んだドレスは薄い素材を幾重にも重ねたもので、可憐であるが、首と肩口の部分が大きく抉れていてかなり肌の出る部分が多めだ。

芽衣は諦めたようにカタログを置くと頭を掻き掻き、横目でディアーナを見る。

「しっかしさぁ、あんたのお兄ちゃん。話には聞いてたけどすごいわね。ディアーナ、あんたお嫁にいけないかもよ。」

「な、何でですの!?」

「そりゃー、あまりにも守りが堅いからに決まってんじゃない。大変でしょうね、いろいろと。」

ディアーナは芽衣の言葉にちょっと困った顔になった。確かにそれは否定できないと思ったからである。

「ちなみにディアーナの好みのタイプってどんなの?」

「王子様ですわ。」

すまして即答されて、思わず突っ伏す芽衣。

「あ、あんた…本気? 今時…。」

「だって、そうなんですもの! 優しくって誠実で高潔で。カッコよくって、強くて頭が良ければいうことありませんわ!!」

目を輝かせて語るディアーナに、芽衣は引きつり、シルフィスは苦笑を浮かべる。

「…何かさぁ、それって…あんたのお兄ちゃんのことのように聞こえるんだけど…。」

「ええ、お兄様大好きですわ!!」

またもや満面の笑顔で即答されて再び芽衣は脱力した。

「うわー、ヤバッ! とんでもないシスコン、ブラコン兄妹だよ、この人たち…。」

「…でも、しょうがありませんよ。お兄さん、本当に素敵ですから。」

苦笑しながらそう言ったシルフィスに、次の瞬間、他の二人の視線が集中する。

「…ど…、どうしました…?」

「はは〜ん。シルフィス、あんた…。」

「シルフィスってば、もしかしてお兄様の事が好きですの?」

芽衣が探るような目で見たかと思うと、ディアーナが無邪気にズバッと本質を突いてきた。

「な、な!?」

途端赤くなり、どもるシルフィスに二人はやっぱりと頷く。

「そ〜かぁ。いや、さっき下で会った時、妙に親しそうだったからアヤシイなぁとは思ってたんだけど〜。」

「ち、ちちち違いますよッ! わ、私のは単なる憧れっていうか、その…!」

「もう、そんなに赤くなって、何を言ってるんですのよ。」

くすくすとディアーナに笑われて、シルフィスは最早二の句が次げないでいる。

「ね、ね、ディアーナ! どうかな? 向こうの方はシルフィスの事どう思ってると思う?!」

「そうですわねぇ…。」

「ちょ、ちょちょちょっと!!」

「大丈夫ですわ。お兄様はさっきお出かけになれられましたもの。」

慌てふためくシルフィスにディアーナは口元に指を立ててにっこりと笑う。

「悪くは思っていないと思いますわ。だって、いい子だって誉めていましたもの。」

「は〜、なら春が来るのもそう遠くないかな!?」

二人は顔を見合わせ、含み笑いを洩らすとシルフィスの方に向き直りにっこりと笑う。

「頑張ってね、シルフィス。わたくし、応援しますわ。」

「あたしも〜♪」

「もう、いい加減にして下さいッ!!」

シルフィスが堪り兼ねて、赤い顔をしたまま叫ぶと二人は揃って声を立てて笑い出す。

「まぁ、確かにあの人なら分からなくもないわね。三拍子揃ってるっていうかさぁ。」

「そうですわよね♪」

こくこくと頷いたディアーナを芽衣は再び探るように見る。

「で、ディアーナはいないの? そーゆーの側に。…お兄さん以外に。」

「う〜ん…。残念ながら、いませんわねぇ。」

考えて、嘆息しながら答えたディアーナに芽衣はそれならと発想の転換を申し出る。

「ん〜…。じゃあさ、これは嫌っていうタイプある?」

「ありますわッ!!」

ディアーナがいきなり握り拳で立ち上がったので他の二人はびっくりして仰け反った。

「不誠実で女ったらしで!! へらへら笑ってて人のことからかって、失礼な事言う性格の悪い人ですっ!!」

ディアーナはひと息でそう捲くし立て、ぜぇぜぇと肩で息をした。

「そーいう人は、例えカッコよくても頭がよくてもスポーツができても嫌ですわ!!」

綺麗な髪をしてても不思議な声をしてても嫌です―――ッ!!と暴れるディアーナ。

その様子に芽衣が冷や汗を流しつつぼそりと呟く。

「…何か…妙に描写が具体的なんだけど…。」

シルフィスはそのディアーナのセリフを受けて少し考える。

「…それって、もしかしてシオンさんのことですか?」

「え? ダレ?」

「この間、お兄さんの大学の文化祭に行ったでしょう? そこで会ったんですけど…お兄さんのお友達とかで。」

芽衣の疑問にシルフィスは答える。確か、あの後帰りの電車でディアーナが不機嫌そうに『あの女ったらし、ですわッ』と呟いていたという事を覚えていたのだ。

「でも、本当に嫌いなんですか? すごく仲良さそうに見えましたけど…。」

「何処を見ていたんですの、シルフィス!?」

ディアーナにすごい形相で詰め寄られてシルフィスは引きつった笑みを浮かべた。

彼女にしてみればシオンとディアーナのやり取りは、はっきり言ってじゃれあっていたようにしか見えなかったのだが…。

「とーにーかーく!! わたくしはああいう人は大っ嫌いですわ!!」

ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向くディアーナにシルフィスは嘆息を洩らす。

そんなシルフィスの肩を叩き、芽衣はぼそぼそとその耳元に囁きかけた。

「…ディアーナの場合さぁ。あれじゃない?」

「あれ?」

「そ。『嫌よ嫌よも好きのうち』ってやつ。」

ねっと可愛らしくウィンクして言う芽衣にシルフィスは曖昧な表情を返す。

「…聞こえましたわよ、メイ。」

「うわぁッ!!」

静かに怒りを湛えたディアーナにいきなりアップで迫られて流石の芽衣も悲鳴を上げる。

「だーって、そこまでムキになるってことは気になってるってことなんじゃないの!?」

「いーえ!! 違いますわ!!」

「顔見てると頭に血が上ったりとか、話してると動悸がしたりとかあるんじゃないの!?」

芽衣の指摘に、声を詰まらせてぴたりと黙りこくるディアーナ。

「………。」

「……ほーら、思い当たる節あるんでしょ?」

「ち、違いますわーあ!!」

…そんなふうに目に涙浮かべて赤い顔をして叫んでも説得力なんて無いっての…。

芽衣はそう思ったが今度は口に出さないでおいた。

「もうっ! わたくしのことはいいんですのよ!! それよりメイは!? どうですの!?」

「んー。…嫌いなタイプは人の話聞かない奴かな。」

そう言った芽衣の口調と仕種に、何か突っ込み難いものを感じて他の二人は口を閉じる。

結局、その日、この話はここで打ち切りとなった。



(…やっぱり、私…『好き』なのかなぁ…)


(違いますわ! わたくしはあの人のことなんて嫌いなんですってば!!)


(別にいいけどさ。あたしとキールは元々何でも無いんだし)


三者三様。相変わらず、心の中は千々に乱れて定まらない。









各自に続く



キール×メイサイド
listening to the・・・

シオン×ディアーナサイド
時間通りに教会へ

セイル×シルサイド
The recital in a store.




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