短編創作

□sea side story
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―波の音。
柔らかくて、どこか懐かしい感じがする。
そんな風景の中にまた、賑やかなものが加わった。

「あははっ! 気持ちいいですよー、アークさんもどうです?」
「遠慮しとくぜ。」

誘われて、砂浜に佇むアークは肩を竦めた。
目の前ではマリンの白い足が波しぶきを立てる。
靴にタイツまで脱いで、海に入った少女はひどく楽しそうだ。
…ガキか、お前は。
そうは思っても、笑顔を振り撒きくるくる飛沫を立てて動き回るマリンの姿は見ていて飽きなかった。
こういうのも、まぁ、たまにはいいかもしれない。

「―あ。」

太陽の光に透ける水の中で、マリンの目に止まった物があった。
よく見る為に少し身を屈める。
…思ったとおり、それは綺麗な貝殻だった。

「わー、綺麗ですぅ。」

嬉しくなって、拾おうと海の中に手を伸ばした。
と、ちょうどその時。
何ともタイミングよろしく少し大きめの波が足元をすくう。

「うわひゃ!」

―ずるっ!

ばっしゃーん!!

「おいっ!」

いつかやるんじゃないだろうかと密かに心配していたことが現実になって、アークは慌てて海に入る。
びしょ濡れになって水の中に座り込む彼女に、やれやれと手を差し伸べた。

「おまえなぁ…。」
「え、えへっ。」
「今度は海かよ。…進歩の無いやつ。」
「ご、ごめんなさい。」

恐縮しながら手を貸してもらって立ち上がるマリン。
わざわざ確認するまでも無く、塩水まみれである。
これはまた、服を買いに行ってやらなきゃ駄目か?
アークが苦い顔でそう思っていると。

「うひゃぁっ!」
「おわっ!?」

―どばしゃーん!!!

いきなりマリンに抱きつかれる様な格好になって、アークは一緒にバランスを崩し海の中に倒れこむ。
…不覚。
ここまで不意をつかれなければ、マリンを抱きとめて平然としているくらい、簡単なのに。

「何なんだよ、一体!」
「ああぁ〜! ご、ごめんなさいぃ!! あ、あの、何か突然、足に触ってきて〜!!」

パニックになりながら説明するマリンの傍を小さな魚がすいっと泳ぎ去っていく。

「…魚だよ。」
「えっ!? えぇっ!? おさかなさんですかっ!?」

アークの指摘に、きょろきょろするマリン。
そんな少女に彼は髪をかきあげて溜息をついた。

「っとに。俺までびしょびしょじゃねぇか。」
「はぅ〜! ご、ごめんなさいです〜!! あー、なんとお詫び申し上げたらよいやら!」

じたばたと謝るマリンを眺めながらアークはすっと目を細める。

「そーだよなぁ。これはもう、慰謝料もらわないとすまないよなぁ。」
「い、いしゃりょう、ですかっ!?」

彼の突飛な言い様にますますパニックに陥るマリン。
今日、そんなに持ち合わせは無いんですけどと半泣きになる少女へアークが顔を寄せた。

「…と、いうわけで。慰謝料。」
「ほぇ?」

事態を悟るよりも先に。
濡れた紫の髪が飾りごと、マリンの頬にあたる。
やがて唇に触れたものが離れていくと、目の前に、にんまり笑うアークの顔。
それから暫くして、ぼんっと音を立てそうな勢いでマリンの顔が赤くなった。

「目ぐらい閉じろよな、お前。」
「え、あ、う? ふへっ!? うえぇえぇえぇっ!?」

完全に意味不明な声をあげて、今にも卒倒しそうな様子のマリンにアークは肩を震わせる。

「…ちょっとしょっぱかったな。」
「は、はいっ?」
「…いや、今のキス。」
「あああああぁ〜くさぁあん!!」

真っ赤な顔で、涙目になりながら声をあげるマリン。
恥ずかしくてどうしようもなくて、ぽかぽかとアークの事を叩いてみる。
だが、その程度の攻撃でどうにかなるような彼ではない。
難なくマリンの両手を捕まえて、にっこりと笑った。

「それじゃあ、ま、仕切りなおし。」

抗議も、疑問も、はさむ暇が無かった。
軽く引き寄せられて、自分の傍にだけ影が差す。
ふわりとした温もりが、波の音に溶け込んだ。






〜Fin〜










ふっ…。お約束v
続く独り言はムードを壊す恐れがあるのでこのままラブラブな気分でいたい人は見ない方がいいかと・笑

→独り言(ギャグ?
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