短編創作
□The Stray Kitten.〜迷子の心〜
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ディアーナは王宮の庭園で小さく首を傾げた。
午前中のかなり早い時間、辺りにはまだ誰もいない。彼女とて今さっき朝食を終えて出てきたばかりだ。
あまりに天気が良かったので、シオンの花壇の辺りを散歩しようとしていたのだが。
「…あなた、こんなところで何しているんですの?」
目をぱちぱちさせながら問う彼女の足元には真っ白な子猫が一匹。
「どこから来たんですの? ここは無駄に広いですから迷子さんかしら?」
兄が聞いたら嘆きそうなことを言ってそれに手を伸ばす。
猫は小さく一声鳴くとおとなしくディアーナの腕に抱かれた。
「逃げないんですのね。ふふ、可愛い。」
そのまま立ち上がると子猫を覗き込んで話し掛ける。
「あなた、何処の子? もしよかったらわたくしのお友達になりませんこと?」
子猫は答えるようにディアーナの鼻をぺろっと舐めた。
「―決定ですわね。好きなだけここにいらっしゃいな。」
ディアーナは嬉しそうに笑ってから、何かひらめいたように頷いた。
「そうですわ。お近づきの証しにご飯はいかが? 多分、まだでしょう?」
また答えるように鳴いた子猫に、満足げに笑って見せてから、ふと思案顔になる。
「…子猫さんには…ミルクでいいのかしら?」
いつだか猫にミルクをあげる時、あげすぎたりあげ方が悪かったりするとお腹を壊すことがあると聞いたような気がする。
(どのくらい? しかも温かい方がいいのかしら、それとも冷たいの?)
ディアーナは難しい顔をして唸った。
「おさかな…は…まだはやいかしら…。」
お魚だったら何がいいのかしら? それも焼いたの?煮たの?もしかして生?
頭の中を?マークが支配した。うーん、と考え込んでいたがすぐに顔を上げて子猫に言う。
「やっぱり、どなたかにきちんと教えてもらってからの方がいいですわよね。」
大事なお友達に下手なことは出来ませんもの。
デイアーナは真面目な顔をして、一人コクコクと頷いた。
「さて、どなたのところに行こうかしら?」
そう言ってまず頭に浮かんだのは三人。
曰く、兄とシオンとアイシュ。彼女の一番身近な人々である。
(シオンには、動物は管轄外だといわれるかもしれませんけど…)
それにしても何かと博識な三人だ。きっと誰かは答えてくれるに違いない。
「あ、でも…。」
しかし、三人はそろって今朝から緊急会議とかで王宮に詰めてしまっている。今会いに行くことは出来ない。
「…せっかくのお休みなんですのにね…。」
淋しげに呟くと、気を取り直して他の候補を考える。
「―…魔法研究院なんてどうかしら?」
そこにはキールと芽衣がいる。キールも物知りだし、芽衣も結構いろんな事を知っている。
あそこにいけば、最悪でも書庫のどの辺りに動物の本があるかくらいは教えてもらえるだろう。
「そうと決まれば善は急げ、ですわ!」
ディアーナは子猫を抱いて魔法研究院の中へ入っていった。
「もうちょっとですわよ。」
機嫌良さげに子猫に話し掛ける。
彼女がちょうどキールと芽衣が使っている辺りまで来た時、それは起こった。
―ズバアァァオォン!!
「きゃああぁあああっ!?」
突然轟音が響き、ディアーナはその爆風に巻き込まれ、吹き飛ばされた。