短編創作
□A leafy shade〜緑陰
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レオニスは大きな木の下に座って、太い幹に背中を預けていた。
穏やかに過ぎていく春に、一斉に芽吹いた葉が生き生きと枝に広がる。
その輝くばかりの緑と、きらきらと降ってくる木漏れ日。
美しい光景だと思った。ずいぶんと長い間そんなことは感じていなかった気がした。
目を閉じれば聞こえるのはさやさやとした心地良い音。風に吹かれた葉が揺れて、絶えずその影の形を変える。
生命力に溢れ、豊かな広がりを見せる力強い緑に、天から降る金色の光。そしてその場を包むのは優しい音。
…何かに似ている気がした。今、こうして自分が身を置いている場所が。与えられる印象が。
そう、自分のよく知っている、あの存在に。
「…こんな所に居たんですか。」
かかる声に、ゆっくりと顔をそちらに向ける。
緑陰の中から、日の光に煌く金の髪を揺らして翠の瞳を輝かせた…女神の姿を見つけて。
その名を―呼んでみる。
「…シルフィス。」
「はい。」
笑って、光の中を歩んでくる少女。
この存在は自分に数多くの事を教えてくれた。
その一つは…時間は過ぎていくのだという事。
いつでも、新しい何かは始まっているのだという事を。
…止まってしまったと思っていた時間は…いつの間にか動き始めていた。
「行きましょう。…みんな待ってますよ。」
その笑顔に、ああ、と頷いて立ち上がる。
ふと歩みを止めて、先を行く相手の後ろ姿を眺める。
見えるのは、この者のためにあるような風景。まるで違和感の無い、一枚の絵のような光景。いいや、もしかしたらこの風景を具現化したものが彼女自身なのかもしれない。
「…どうかしました?」
一向に付いて来ない彼をシルフィスは不思議そうに振りかえる。
「いや…。」
レオニスは真っ直ぐに前を見据えたまま小さく答えた。
「…綺麗だと、思った。」
〜Fin〜
シルフィスって初夏のイメージがあります。
夏になる前の、その一歩手前の春って感じ。(^^)
皆さんはどう思います?