短編小説

□君をさがして
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『……それが願いか?』

 嗄れた老婆の声が耳鳴りの混じる鼓膜に届いた。
 だが、意識が遠のいていく狼は、息も細くぴくりとも動かない。

『それがお前の望みなのか?』

 もう一度、老婆――魔女は問う。その声に、微かだが狼が小さく身じろいだ。

『解った。では契約成立だ』

 頷いた狼に、魔女はにぃ、と口の端を上げた。そして、ぶつぶつと何事かを唱え始める。
 転生、そして契約の呪文だ。
 暫く続いた詠唱がぷつりと途切れたかと思うと、狼の身体が淡く光り出した。死の淵を漂う狼は、その光に耳、脚、胴、尾までも包まれていく。

『チャンスは一度きりだ。もし望みが叶わず死した時は、永久に私の僕になってもらうぞ』

 完全に光に取り込まれた狼に向かい、その誓約と共に魔女は指を動かした。たちまち狼の四肢は中に浮き、傍らにあるゆりかごにふわりと収まった。

『――契約完了』

 その言葉を最後に、狼の身体は完全に動かなくなる。

『さぁ、目をお開け……』

 魔女の声に呼応するように光が弱まっていく。
 狼が横たわっていたそこに現れたのは、一人の人間の赤子。

『そうだな……、ラウル。今からお前の名前はラウルだ』

 解ったね、と了解を得る魔女の声に、ラウルと名付けられた赤子は微かに瞼を上げた――。


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