短編小説
□君をさがして
1ページ/34ページ
『……それが願いか?』
嗄れた老婆の声が耳鳴りの混じる鼓膜に届いた。
だが、意識が遠のいていく狼は、息も細くぴくりとも動かない。
『それがお前の望みなのか?』
もう一度、老婆――魔女は問う。その声に、微かだが狼が小さく身じろいだ。
『解った。では契約成立だ』
頷いた狼に、魔女はにぃ、と口の端を上げた。そして、ぶつぶつと何事かを唱え始める。
転生、そして契約の呪文だ。
暫く続いた詠唱がぷつりと途切れたかと思うと、狼の身体が淡く光り出した。死の淵を漂う狼は、その光に耳、脚、胴、尾までも包まれていく。
『チャンスは一度きりだ。もし望みが叶わず死した時は、永久に私の僕になってもらうぞ』
完全に光に取り込まれた狼に向かい、その誓約と共に魔女は指を動かした。たちまち狼の四肢は中に浮き、傍らにあるゆりかごにふわりと収まった。
『――契約完了』
その言葉を最後に、狼の身体は完全に動かなくなる。
『さぁ、目をお開け……』
魔女の声に呼応するように光が弱まっていく。
狼が横たわっていたそこに現れたのは、一人の人間の赤子。
『そうだな……、ラウル。今からお前の名前はラウルだ』
解ったね、と了解を得る魔女の声に、ラウルと名付けられた赤子は微かに瞼を上げた――。
.