The turn of the star
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「なぁ、希美」
カシャカシャと泡立て器がたてる音が厨房内に小さく響くなか、智和は隣の少女に呼び掛けた。
「何ですか?」と聞き返してくる希美に、智和は何気無い素振りで問い掛ける。
「お前、付き合っている奴とかいるのか?」
すると、暫く沈黙が続いたかと思うと。
「なっ、なんですか急に!」
ガタガタと物音をたてながら、酷く驚いたような声音で希美はそう叫んだ。
「いや、折角の休みなのにここでケーキばかり作っているから」
少し気になったんだ、と言ってやると。
「ーーーふんだっ、お察しの通りいませんよーだっ」
と、ふいっと顔を背け、つっけんどんに言い放った。
ちらりと見遣った先の、少女の耳が微かに赤い。その様子に自然と智和の頬が緩んだ。
今日は十二月二十三日。祝日である。以前のケーキ教室がいたく気に入ったようで、暇さえあれば希美は師事してくるようになった。よって智和は、土曜日曜の休日は大体ケーキ教室をするはめになっている。
おまけに、あと数日すれば冬休みにも突入するため、益々講座回数は増えていくことだろう。
(まぁ、嫌ではないがな)
胸中でそう呟く智和。実を言えば、彼女とのケーキ作りは楽しみでもある。
一生懸命に取り組む様は、教える身としては喜ばしいし、可愛らしくもある。
「そういう智和さんはどうなんですか?」
一人考え込んでいた智和は、そんな希美の質問に現実に引き戻された。
希美の疑問を聞いた智和の表情が憮然としたものに変わる。
「今は居ない」
声音も若干低めになる。だが、そんなことに気付いていない希美は、居ない理由の最もなところをついてくる。
「どうせ細かいことガミガミ言ってフラれたんでしょう」
なまじ外れていないため、智和の機嫌は更に斜めに降下する。
今まで何度か付き合ってきたが、確かにそのどれもが余り長続きしていないのだ。
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