The turn of the star


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 帰る前に一ヶ所だけ寄って良いですかとの彼女の申し出に、智和は頷いた。

「すみません、寒いですよね」
「気にするな。で、どこに行くんだ?余り遅いと家族が心配するから早くしろよ」

 そうして辿り着いたのは、こじんまりとした一軒の洋菓子店だった。
 その店に智和は目を見張る。

「ここ……」
「どうかしましたか?」
「い、いや」

 思わず溢れ落ちた声に少女が首を傾げる。
 動揺を悟られないよう、智和は努めて平静を装うが。

「――ここのケーキだったんです」

 隣で少女が洩らした言葉に耳がいく。それはとても小さな囁きだったが、はっきりと聞こえた。

「きっかけは、ここのイチゴのカップケーキでした」

 泣きそうな、でも柔らかな笑みを浮かべ、希美が店に向かって一歩踏み出す。
 その表情を目の当たりにした智和は、ただただ息を呑んだ。



「いらっしゃい、――おや、希美ちゃんじゃないか」
「こんばんは」

 足を踏み入れた店内は暖かく、ケーキやお菓子の甘い匂いで満ちていた。
 声を掛けてきた五十前後程の男はこの店の店主で、親しげに少女の名前を呼ぶ。しかし、次いで後ろに佇む智和を見た瞬間。

「――――智和、お前何してるんだ?」
「え?」

 すっとんきょうな声でそう言ってきた。
 店主の言葉に希美が智和を振り返る。

「知り合いなんですか?」

 きょとんと目を丸めて見上げてくる少女になんと説明してよいのやら、智和は軽く唸ったあと。

「……知り合いもなにも、ここは俺の実家だ」
「――――はぁ!?」

 溜め息混じりに白状すると、希美は盛大に声を上げた。



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