The turn of the star
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「ねぇ希美、今日一日やけに嬉しそうにしてたけど、何か良いことでもあった?」
学校からの下校中、幼馴染みの正美にそう言われ、希美は「そうかな?」と首を傾げた。
聞いてきた正美もだが、一緒に居た優にもきっぱりと頷かれ、希美は思い当たるふしを懸命に思い出そうとするが。
「んー、特にないけど……」
今日一日の出来事を思い返してみてもさっぱり覚えがなく、希美はそう答えた。すると、隣を歩いていた咲が可笑しそうに笑った。
「あら、あの事じゃないの?」
咲の意味深な言葉に正美と優は怪訝な顔をする。
「あの事って?」
「なになに?咲さん何か知ってんの?」
「ええ、多分当たってると思うわ。――――この子昨日の夜、日曜日に智和さんとケーキ作りの約束をしたのよ。きっとそれで浮かれてたのね。昨日も凄く嬉しそうにしてたから」
そう言って楽しそうに笑う咲。
しかし、その笑い声を遮るように希美の右半歩前で正美が、だんっ、と足を踏み鳴らした。
「あの人、いったいどの面下げて来たのよ!」
正美は語気を荒げ希美に詰め寄る。
「な、何だよいきなり」
「あんたは黙ってて」
昨日の喫茶店での出来事を知らない優は、いきなり血相を変えた姉に驚く。
希美は慌てて彼女を宥める。
「落ち着いてよ正美。あの人、その事を謝りに来てくれたんだから」
「……本当に?」
「咲が話したら自分から謝りたいって言ってきたらしいの。ね、咲?」
「ええ。あの人はそういう方なのよ。誠実で素直な方だから感情に任せてすぐ行動しちゃうの。自分に非があると尚更ね。一見冷たい感じだけど情に篤いところもあって、良い人よ。だから昨日のことは許してあげて」
咲にそう言われれば、正美も引くしかない。彼女の人を見る目は確かだから。
「咲ちゃんがそこまで言うなら……。でも次は無いからね」
「ありがとう」
渋々納得した正美に咲は朗らかに笑む。
その一方では、咲の言葉に希美は確かに、と思っていた。
彼は、口調は偉そうで堅物なところもあるけど、その実は情に脆く誠実な優しい人。
「――――うん。優しい人だよね」
昨日の智和の真摯な姿を思い出し、希美はぽつりと小さく呟いた。その表情には無意識に微笑みが浮かんでいる。
それを三人は見逃さなかった。
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