The turn of the star
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「うーん、私ならもう少し砂糖を足すかなぁ」
届けたミルフィーユを一口頬張った希美が不意に漏らした一言。それが、これからの自分の運命を左右するきっかけになるとは、智和はこの時は予想もできていなかった。
あれからちょくちょく顔を会わせるようになった少女・日野希美。
最初は挨拶程度だったが、少しずつ会話は増えていき、今では下の名前で呼び合うまでの仲になった。
そうしていると、自然と相手の性格や癖が解ってくる。
そのうちの一つとして、彼女は来る度に何かしらのデザートを注文していた。
「お前みたいな小娘に味が分かるのか?」
それは暗に「お前は料理をするのか」と、皮肉を込めて言ったものだった。だが、その一言が思わぬ地雷となった。
「……っ」
「智和さん!」
さっと顔色が変わった希美と、責めるように強く呼ぶ咲の声に、智和は一瞬たじろぐ。
「希美、気にしないで」
一緒に来ていた希美の幼馴染みも何故か表情を一変し。
何事だ、と少女達の様子を窺っていた智和の前で、徐に希美が立ち上がった。
「……ごめん、先に帰るね」
そう小さく言うと、自分の分の代金を正美に渡し、希美は出入口へと駆け出した。
「なん、だ一体……」
突然店を出ていった希美に呆気にとられる智和。
そんな青年に正美は眉を吊り上げた。
「ちょっと、あんた!」
怒りを露にした正美の声が店内に響き渡る。
幸い、他の客は居ない。
「そんなに親しい訳でもないから言ってもしょうがないだろうけど、さっきの言葉はあんまりだわ!」
襟元を掴み詰め寄ってくる少女に、智和は訳が分からず怪訝な目を向ける。
「……どういう」
「ふん、教える義理もないわね」
冷たい視線が智和を射ぬき、掴まれた襟元から正美の手がすっと離された。
そしてそのまま、咲へと勘定を済ませ彼女も出ていった。
「全く、なんだと言うんだ」
年下の、しかも女に怒鳴られ、智和は不機嫌に顔をしかめる。
だが、そんな彼を振り返った咲の表情もあの少女同様に険しかった。
「智和さん、さっきの希美に対する言葉は私も聞き捨てなりません」
「だから何故」
理由も教えられないままこうも諫められれば、自ずと苛立ちが募る。
「あんな言葉の何が気に障ったと言うんだ?」
子供扱いしたことか、それとも料理をするのかと小馬鹿にしたような言い方か。
そう問い掛けた智和の言葉に、咲は「いいえ」と首を横に振った。
「――――あの子はむかし、味覚障害に悩まされていたんです」
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