The turn of the star
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「ごめんねー、さっきは智和が失礼したみたいで」
食後のティラミスを持ってきてくれた雅紀が苦笑を溢しながらそう言った。
「本当ですよ。あんなに冷たく言わなくてもいいのにっ」
受け取ったケーキをフォークで掬いながら、希美は言う。
「でも悪気はないから。それで、お詫びと言ってはなんだけど、このカップケーキはプレゼント」
はい、と可愛くラッピングされたカップケーキを三人に渡す雅紀。
これに目を輝かせたのは希美だ。
「わぁ、美味しそう!これも雅紀さんのお手製ですか?」
嬉々としてカップケーキを受け取った希美は雅紀に尋ねる。
この店は、料理を母、デザート類を兄が作っていると、以前咲から聞いていた。だからこれも雅紀が作ったのだと思っていたのだが、彼から返ってきたのは意外な答えだった。
「いや、これはそのこうるさい奴からだよ」
「え……?」
「お客さんの前でとるべき態度じゃなかったってね。どうやら反省してるみたいだからさ、貰ってくれると有り難いんだけど」
「……これ、あの人が作ったんですか?」
吃驚している希美に雅紀はにこやかに頷く。
「あいつ、厨房担当なんだよ。俺と母さんの二人じゃ限界もあるし、それにあいつ、調理師の免許も持ってるんだ。因みにこのティラミスもあいつが作ったんだよ」
「うそ……」
自分の手元にある、一口分欠けたケーキを見て、希美は小さく呟いた。
チーズのコクのあるクリームにエソプレッソのほろ苦さが絶妙にマッチしたそれは、確かにいつも食べていたものとは違うことは解っていたが……。
(――思ってたより嫌な人じゃない、かな)
確かに偉そうな口振りでちょっと難ありだけど、自分の過ちには素直に謝れる正直な人。
少しの間逡巡して、希美は雅紀に笑みを向ける。
「これ、喜んで頂きます。だからあの人にも、気にしないでくださいって伝えてください。もとはと言えば私が悪いんだし」
「本当?そう言ってもらえるとこっちも助かるよ。――――だってさ、良かったねー、智和」
「え?」
そう言って希美を通り越し後ろへと声を掛ける雅紀。
振り向くとそこには、申し訳なさそうな顔の青年と、それを見て困り顔で微笑んでいる咲の姿があった。
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