短編小説
□恋心は甘くほろ苦く
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「ほら、口を開けろ」
「えっ!?」
自分の為に作られたケーキにもびっくりしていた希美だったが、更に思いも寄らぬ智和の行動に口から甲高い声が飛び出る。どうやら彼自らの手で食べさせてくれるらしい。これに希美が慌てない訳が無い。
「えっ、あっ、だ、大丈夫です! 自分で食べ」
ます、と続く筈だった希美の言葉は、戦慄く隙を逃さずに口内に進入してきた愛の塊に喉の奥へと押し込まれてしまった。
「美味いか?」
見事『あーん』を成功させた智和はちっとも恥ずかしさを感じていないようで、味の感想を求められた希美だけが羞恥心に身を縮こまらせていた。
「…………ありがとう、ございます」
小さくなりながらもちゃんと礼を言う希美。それを聞きながら、二口目を掬っていた智和も胸に湧いた想いを希美に伝える。
「俺の方こそ、ありがとう。お前が俺の気持ちを受け入れてくれたから今があるんだ。――これからも側に居てくれ、希美」
「……はい」
頷いた少女の口元に再びフォークを持っていった智和。照れながらもそれを受け入れた希美。
誰も立ち入ることの出来ない二人だけの空間。大好きな人に自分の気持ちを受け取ってもらえて、お互いの想いを再確認して、まだ始まったばかりの二人の恋はこれからも心を暖かく満たしていくのだろう。
「だから言ったでしょう、二人だけにしててあげてって。どうせ中てられてしまうんだから」
好奇心、もといでばがめ心が疼いた雅紀と優が厨房へと繋がる入り口からこっそりと様子を窺っていたその後ろで、青年と少女の姿に微笑ましそうに呟く咲。覗いたことを今更後悔した他の三人は、その言葉に激しく首を縦に振ったのだった。
【完】