短編小説

□恋心は甘くほろ苦く
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 綺麗に整列していたその中からココアパウダーのものを一粒掴み出し口に入れる。溶け出したそこからはチョコレート特有の甘みが広がるのと同時に、ココアのほろ苦さも伝わってくる。じっくりと味わったそれを全て嚥下した智和は、不安そうな顔で自分の言葉を待つ少女に目を細めた。

「美味い。ありがとうな、希美」

 素直にそう言ってやると、希美は「本当ですか? 良かった」とほっと一つ息を吐いてみせた。安堵する様がまた可愛らしい。
 常日頃一生懸命にケーキ作りに勤しんでいる姿を知っている智和が、もっと自信を持っても良いものを、と言うと希美は苦笑を返いた。それから「上手く出来たものでも口に合わなかったりするじゃないですか」と、敢えて智和の味覚に合わせたかったと告白してくるものだから、その心遣いに智和も表情を和らげた。

「本当にありがとう。――――あと、これは俺からなんだが……」

 希美から受け取ったチョコはひとまず傍らに置き、智和は身体の影からす……と四号くらいのケーキボックスを引き出した。案の定「何ですか?」と首を傾げる希美に、智和はごく普通に答える。

「俺からお前へのバレンタインのチョコだ」

 智和の手で封を開けられたボックスの中には、手のひらサイズのホールのチョコレートケーキが収まっていた。不思議そうに覗き込んでいた希美の双眸が、言葉と共に姿を現したそれに驚愕に見開かれる。

「……私に?」
「ああ、お前の為に作った物だ。別に女性から贈るだけがバレンタインじゃないだろ?」

 驚いている希美に笑みを深めながら、智和はそのケーキを取り出す。食べやすいように切り分け、フォークで一口分掬った。

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