短編小説

□恋心は甘くほろ苦く
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「ええ。お邪魔するのも悪いから二人だけにしててあげてね」

 隠しもせず肯定した咲が、覗きに行こうと動き出した男達を見遣り満面の笑みで釘を刺す。ぎくりと肩を震わせた雅紀と優。口にこそは出さないが、二人の行動に呆れる果てる正美。直ぐ隣でそんなやり取りが行われていることも知らない当事者達は、厨房の空気を見事なまでの春色に染め上げていた。



「智和さんみたいに美味くはないけど……」

 自信無さげに差し出されたのは、カラータイで口を縛られたこじんまりとしたギフトバック。市販のパッケージに包まれた物などではなく、それだけで手作りだということが窺い知れる可愛らしい贈り物だった。
 恥ずかしそうに俯く希美に表情を和らげた智和は、そっと彼女の手からギフトバックを引き抜く。

「そんな事はない。お前自らが俺の為に作ってくれたんだ。喜んで受け取る」

 穏やかな微笑みを向けられた希美は、僅かに視線を上向かせ、それからはにかんだ笑みを返した。仄かに桜色に染まったその頬に、智和の胸の内を先駆けの春の風が吹く。

「開けても良いか?」
「どうぞ」

 希美の了解を得てタイを解くと、そこから覗いたのはココアパウダーやカラースプレー等で彩られた数粒のトリュフ。デコペンでラインを入れたものやホワイトチョコを刻んでまぶしてあるもの等、工夫を凝らしてあった。将来はパティシエを目指している彼女にすれば、これぐらいはお手の物だろう。

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