BOOK08

□07.苦しい、愛しい
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俺が苦しいと辛いと思ったことは今まで一度しかない。

母親が死んだことだ。
腹を痛めて生んだ子を、自分の子供として見守ることはできず、それでも笑顔で俺を愛してくれた人。
最後は愛した人に殺されて、その綺麗な存在を世に形すら残すことなく、俺の目の前から突然消えた。

それを一気に聞いた時、当時俺はまだ8歳かそのぐらいだった。
幼い頭と体では全てを受け入れられる訳もなく、あんだけ死にたい、と思ったことも一生の内、多分あれっきりだ。

苦しかった。辛かった。
―――苦しかったんだ……。

誰も助けてくれなかったから、俺は自分を助けてくれた十代目しか絶対に信用しないと、そう心に決めたのに…。


「獄寺!」


突然入り込んで来たコイツは、俺が張っているバリアを無理矢理壊すでもなく、透明人間みたいに通過してきて、俺の中に入ってきた。

気にくわなかったんだ。
すごく嫌いだった。
こんな笑顔偽物なんだ、て、ずっと思ってたのに……。


「好きだぜっ!」


いっぱいの笑顔は俺に向けられた。
優しさも愛しさも全てを詰め込んだような笑顔。

愛の言葉と、優しさは俺に向けられた。
包み隠さず本音をぶつけてくる。
そのくせに、気遣うことや、優しさは然り気無い。


俺に気付いたら振り返って、慈愛に満ちた笑顔で愛の言葉を叫んだ。
そしてぎゅう、と抱き締められる。

心臓が悲鳴をあげる。心臓が忙しなく動いて、体温を上げる。
泣きそうで、眸の奥が熱く滲む。


苦しい、愛しい、愛してる……。



End

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