BOOK05

□D.初恋が最後の恋
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「はあ、山本が、」

「そう。お見合い、だけどねー」


本人が乗り気じゃないんだよねー、と十代目がため息を吐く。
十代目のカップにコーヒーを注いで、十代目の前にお出しする。
ありがとう、といつもの笑顔を頂き、そこでやっと山本のお見合いの話を頭で繰り返す。

お見合い、か。いつかはこんな日が来ると思っていたけど。
今更ショックは受けない。
もう一通りのショックは山本が彼女をつくり、のろける度に受けてきたし。


「山本が所帯持ちかあ…。くっ、似合いすぎ」

「そうですね、簡単に想像がつきますね」


微笑むと、十代目が俺をふ、と真剣に見つめてきた。


「獄寺君は、どうなの?」

「え……?」

「いや、結婚とか考えるのかなあって」

「自分は…そういうの、無縁な気がします」


悔しいけど、俺は山本が所謂、初恋で。
ずっと好きで。
本当に不本意だけど、もう山本のこと好きなのは変わらない気がする。

俺はそういうの、いいです。と小さく呟くと、十代目が微笑んだ。


「山本も、そう言ったんだよ」

「お見合い渋ってる理由ですか?」

「うん。本当に意外なんだけど…」


実はね、と十代目が話そうとした時、後ろの扉が大きな音をたてて響いた。
思わず振り返り構えると、山本が笑顔で立っていた。

ほ、と安心して、肩の力を抜く。


「なんだ…お前か。ノックくらいしろ」

「よっ!ツナ、獄寺」

「あっ、山本ー。今獄寺君と話してたから早速なんだけど、お見合いの件でね……」


山本があー、あれ。と困ったというように肩を竦めた。


「断ったじゃん、俺は見合いする気ねえって」

「初恋の相手がいるから結婚前提とか本気の恋愛はしない、でしょ?」


十代目が笑いながら言った言葉に固まる。
山本がちょ、ツナ!と俺と十代目を交互に見ながら慌てる。

初恋?あんなに彼女のことのろけてきやがったクセに?
やばい、これはけっこー……


「あの、ここからは十代目と山本でまとめてください。俺は仕事も残ってるんで…」


失礼します。と立ち去ろうとした時、ちょっと待って!と、十代目に手首を掴まれた。
十代目の命令だから振り払えずに、立ち止まったまま俯く。


「山本も獄寺君も、子供がいて奥さんがいてっていう家庭、すごく似合うと思うよ」

「ツナ……」

「でもさ、俺…獄寺君と山本が一緒にいる未来が、一番二人に似合ってると思うんだよね」


俺がそうあって欲しいだけかもしれないけど、と笑った十代目。
山本を思わず見てしまった。
そしたら山本の真摯な目に捉えられてしまって、また固まってしまった。

山本の腕が俺の肩に伸びてきて、がしり、と大きな手で肩を強く掴まれた。


「俺が、見合いしない理由、獄寺なんだよ」


そう言った山本は泣きそうな顔になって、一生言うつもりなかったのに、と呟いた。
顔に熱がどんどん集まって、どうしよう。俺。自分がどんな顔してるのか、分からない。

山本を真っ直ぐに見つめると、山本も顔を真っ赤にしながら、子供のように嬉しそうにはにかんだ。
ああ、俺、本当にどんな顔してたんだ……。


「獄寺、あのな……」

「やーまーもーと!見合いの件はどうなったのかなー」

「ちぇ、ツナも意地が悪いのな。何度も言わせるなよ、答えはNOしかねえって。だって俺、ずっと恋してる奴がいるんだから!」


な、と何の同意か知らないが、俺に笑いかけてくる山本。
俺はもうこの展開についていけなくて、ただ固まることしかできない。
山本の再度のな?の問いかけに、思わず頷いてしまった。

頭が回らない。どうしよう。
獄寺好きだ!と十代目の前で抱きつかれてるのに、突き放せず、みっともなく泣いてしまいそうで、
俺は俯いて、山本の嬉しそうな言葉と、十代目の穏やかな笑い声を、ただ聞いてるだけで精一杯だった。
 

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