BOOK05

□C.冷たい指先
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夏も終わったばかりだというのに、暗くなるのは早く、その上、夕方になるにつれけっこう冷え込む。
でも俺の部活は季節の変わり目なんて関係なしで、けっこう遅くまでやったりする。

夏は獄寺が待っててくれて一緒に帰れることもあったけど、
こんなに真っ暗になってしまうと、さすがに待ってもらうには心配すぎる。

だって俺の恋人は最高に可愛い。
白い肌も銀の髪もみどりの眸も、暗いとかえって目立つくらいきらきらして、とにかく可愛いんだ。
だれかに襲われたり、とかまじでシャレになんねーんだよ。

そんなこと言ったら、はあ?女じゃねーんだから、バカじゃねーの。と冷ややかに蔑まれたけど、
獄寺は自覚してないだけで、実は獄寺のことやべーかわいい。きれーだよな、なんて思ってる輩はたくさんいるんだよ。


本当は部活早く切り上げて明るい内にお前と帰りてえよ。
でもそういうわけにもいかないから、今日もツナと一緒に帰ってもらう。


「頼んだぜツナ、獄寺に変な喧嘩買ったり、寄り道とかしねーように帰り際にしっかり伝えてくれよ」

「あはは、分かってるしいつも言ってるよ。ほんと、獄寺くんのことになると過保護だよなあ」


そりゃ、口説いて口説いて、口説き落として漸く手に入れた大切な可愛いこいびと。
過保護にもなるし、心配性にもなる。

本当は俺が一緒に帰りてえんだけど、と恨言のようなことを言ってると、獄寺がお待たせしましたー!と走ってきた。
きらきらと目を輝かせて駆け寄る獄寺。なんでそんなかわいい無防備な顔を教室で晒すんだ!という心の叫びをぐ、と堪えておおきく溜息を出す。


「なんで野球バカまでいるんだよ。さっさと球遊びしに行けバカ」

「うんうん。ごめんな、これから一緒に帰れなくて」


むっ、と睨む獄寺のちいさな頭をなでなですると、案の定怒った。
あー、もう癒される。かわいー。


「じゃあ山本、部活頑張ってね」

「おう。あ、獄寺!夕陽が沈む前にはちゃんと家に居るんだぞ」


今時小学生だって守らない約束を確認すると、心底呆れたような顔をされた。そして、
お前は俺の母ちゃんかよ‥だって。


部活中だけど思い出して溜息が出る。ふわ、と白い息があがって、ああ、夏終わったばっかだと思ってたけど、もうこんな寒いのか。と思う。

そりゃあ、俺だって寒い季節限定の恋人あるあるしてーよ!
寒がりの獄寺と手を繋いで、暗いからばれねーって、みたいな感じで帰ったりとかさ。
さみい、なんて鼻の頭真っ赤にしてくっついて甘えてくる獄寺ぎゅーってしてみたり、やめろバカ!て全力で拒否する獄寺宥めたりとか。
肉まんとホットの飲み物買って公園でちょっとイチャイチャしてみたりとかさ。
寒いの我慢してる獄寺に俺のジャージ羽織らせてさ、あわよくば着せて、ダボってなって悔しそうにして、汗くせーんだよ!とか言いながらあったかいからもぞもぞとちゃんと着ちゃってたりとか‥
もう寒いのばんざーいっ!って感じなんだけどさあ。
‥獄寺の安全第一だよな‥。

妄想してたらあっという間に部活も終わって軽いミーティングして、制服に一番に着替え終わった俺は部室を一人で出た。
妄想してたら獄寺に会いたくなったから、友達にわり、今日は一人で帰るとだけ伝えて浮き足立っていた。


「山本っ」

「ん?ああマネージャー、お疲れ」


はあはあと息を切らして声をかけてきた。なに急いでるんだ?顧問が俺を呼んでたとか?と思っていると、
マネージャーが俺の腕にするりと両腕を巻きつけてきた。


「一緒に帰ろう」


こうもぎゅうっと腕に巻きつかれると、振り払えなくて困りながら苦笑いを返した。
あの、はなしてくんねーかな?って引きつった顔で言うも、なんで?と返されれば何も言えない。

なんで、って恋人でもねーのに、
マネージャーは友達の延長線上でこうしてるんだろうけど、
俺は獄寺以外とは‥特別な奴とはこういうことしたくないんだけど。

校門まで来たところで、マネージャーの手がするりと下りてきて、ぎゅ、と握られる。
あの、さすがにこういうのは!と非難しようとしたところで、ばちりと視線が合った。

マネージャーの先にいる獄寺と。
凍りつく。マネージャーと繋いでいる俺の手を獄寺は凝視していた。

獄寺の顔が泣きそうに歪んだかと思うと、きっ、と俺を泣き出しそうな目で睨みつけた。
そして何も言わず走り出してしまう。


「獄寺っ!!」


思わずマネージャーの手を強く振り払って駆け出す。
けれどマネージャーがそれでも腕を掴むから、余裕なく睨み付けた。
わり、とマネージャーにイライラしながらも呟いてまた強く振り払った。

全力で走るけど、獄寺の背中が小さく遠のいてみえるくらいには距離が開いていた。
まだ、もうちょっと、
息が上がる。白い吐息も疾走する。
はやく、もっと早く走れるだろ!

背中が近づく、ぐ、と手を伸ばして、
腕を掴んで、そのままの勢いで抱き締めた。


「つか、まえた‥‥」


はあ、はあ、と息が整わない。
喉に何かがへばりついたように、ひりひりと痛い。

でも、離せ!と激しく身を捩る獄寺のからだが冷たくて、
離したくなくて‥‥いとしくて、
くるりと獄寺に正面を向かせて、抱き締めてた腕を緩めて、獄寺の両手をぎゅう、と握り締めた。

指先が、驚くほどつめたかった。

ふと、獄寺を見つめると、
いまにも泣き出しそうな顔で怒った獄寺が必死に俺を睨みつけた。
頬も鼻の頭も真っ赤で、唇もいたいほど噛み締めて、

どうしよう。謝らなくちゃいけねーのに、かわいくて、かわいくて。
喉がつまって、走ったのとは違う別の意味で心臓がどくどくいたくて、
自然と眉が下がってしまった。
 

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