BOOK05

□C.慌てて離した手
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わー!獄寺君のおかげで初の追試なしだよー!
そんな!十代目の実力ですよ!
獄寺あ〜!
あ?なんだ野球バカ!
俺、5教科全追試だったのな…
自業自得だろ。お前前日にAV観賞するとかはしゃぎまくってた罰だ。
ちょ、獄寺!
あのー、獄寺君?山本も獄寺君に教えてもらいたかったけど、俺の勉強を優先してくれたんだよ?ほら、俺物わかり悪いからさ…
そんな、十代目が気にすることじゃないですよ!
だから、ね?俺からもお願い。

と、十代目に頭を下げられれば断る訳にもいかず…。
放課後、追試クリアするまで部活なしというペナルティを課せられたくせに、やけにニコニコしているバカに勉強を教えてやっている。


「なあ、獄寺ここわかんねー」

「ああ?この間習ったばっかだろこれ。√16=Xはー、4×4だから、」

「ああ!そーいうルールな!」


コイツ、やればできるくせして。元がすっかすかの頭だからスポンジのごとく吸収して覚える。それに、要領がいいから概要やルールさえ覚えれば応用も難なく解きやがる。
ったく、と溜め息を吐く。


「……なあ、獄寺授業殆ど聞いてないのに何で分かるの?」

「はあ?授業なんて教科書通りに進んでるんだから普通分かるだろ」

「んー、秀才発言だなあ」


すげー、と山本が笑う。
まあ、誉められて悪い気はしない。思わず、まーな!と自慢気に答えてしまう。
じゃ採点よろしく、獄寺先生。と先程の問題集を手渡してくる。
随分早かったじゃねーか、と訝しみながらも答案をチェックしていく。


「お前さあ、真面目に授業聞いとけば追試なんてなんねーんじゃね?」


ほとんど丸が付いた答案を返す。
山本がおおっ、やった。と驚きながらも笑った。


「先生がいいんじゃね?だって獄寺の授業なら何時間だって聞いてられる自信あるし」

「なんの自信だよ」


ふ、と釣られて笑う。
山本の顔が一瞬強張ったように見えたけど、次の瞬間にはいつものヘラヘラした顔になっていた。
見間違いだったのかも。と気に留めないことにした。

じゃ、次の問題もさくっとやっちゃいますか。と山本はすっかり自信を持ったみたいで、くるくると指先でペンを回し始めた。
そのペンが体勢を崩して山本の指先から落ちていく。
何どんくさいことやってんだよ、と身を屈めてペンを拾おうと手を伸ばした。

伸ばした手に山本の指先が触れて、その手がびくっと固まった。
ああ?なんだよ、と顔だけ上げると、だらだらと汗をかいて真っ赤な顔をした山本と目が合って、その瞬間あ、と驚かれ変な作り笑いを見せられた。
なんなんだ。と思いながらも、ペンを拾ってやり、体を起こして山本に手渡してやった。


「あ、ありがとな」


ぎこちなく礼を言われて、両手で大切そうにペンを受け取られる。
今度こそ露骨に眉を寄せてしまった。


「お前変だぜ?熱でもあるんじゃね?勉強しすぎで」

「え!知恵熱!?この年でそれは、いくらなんでも」


いつものようなた態度に戻った山本に、ちょっと安心した。
ひでーよ、獄寺あ。なんて情けなく笑う山本に、はっ、と息が漏れるように笑いが溢れた。
そしたら山本が、えへへ、と嬉しそうに笑った。


「俺、このペンがあれば追試もらくしょーな気がする」

「……何言ってんだ。俺が教えてやってんだから、らくしょーなのは当然だろーが」

「……、ははっ!だな!」


追試いつでもかかってこーい!と問題に再度向き合った山本に、思わずまた頬が弛んでしまう。
まだ数学しかやってねーくせに。よくここまで付け上がれるな。と嫌味を言ったら、だってお前との勉強が楽しくて仕方ねーんだ。と真っ直ぐに笑いやがった。

……たったこれだけのことごときで、こんなバカに思わずときめいたのは絶対に秘密だ。

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