BOOK04

□B.雨が降る屋上で
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ザー、と地面と窓を打つ音が聞こえて、机に突っ伏してた顔を上げる。
あー、雨か……。
憂鬱な気分で窓を眺める。
思わず頬杖ついて溜め息もついでに吐くと、今度こそ先生に怒られた。

やる気はあるのか、だとさ。
やる気さえあったらこんな態度にはなりませんよ、と思いながら、すみませーん、と嘘をつく。

はー、マジで退屈。
なんか、こう……おもしれーこと起こんねえかなあ。


「あるぞ」

「おっ、小僧じゃねーか」


どうしたんだ?と聞くと、ニヤリと笑った。


「屋上で獄寺が喧嘩だ」


思わず立ち上がった。
全然、おもしろくねえ。
俺は直ぐに屋上へ向かった。不思議と、先生が怒鳴る声は聞こえなかった。

けど、そんなこと、気にしてる場合じゃねえ。
一刻も早く、屋上に……!
息を切らして、扉を開けると、雨に濡れる獄寺が煙草をすっていた。


「獄寺っ!」

「あ?山本?」


タバコを直ぐに雨水で消して、気怠げに立ち上がる獄寺。
俺が獄寺に近寄ろうとすると、


「バカ!風邪ひくぞ!」


と、怒鳴った。
自分のこと棚にあげて、


「つーか、授業抜けてきたのかよ?さっさと帰れ。バカなんだから」


ふい、と俺に背中を向ける。
なんか、心配してるのに、迷惑だと言いたげな背中を向けられて、ついムカーときてしまった。


「なんで喧嘩するんだ!もっと…自分大事にしろよ!」

「知ったような口をきくな。傷つけてでも、そうしねえと守れねえもんもあるんだよ」

「なんだよ、それ……」

「お前は、知らなくていい」


獄寺は俺の横を、いちゃもんをつけるチンピラみたいに肩をぶつけて通りすぎていった。

なんだよ、それ……、喧嘩なんて、それこそバカがすることだ。
暴力で人を黙らせて、自分を守るなんて、バカげてる……。
ぐ、と拳を握りしめた。


「っ、いてー…あのやろう……」


開いた扉の後ろで呻き声が聞こえた。
ふい、と覗くと、男が三人転がっていた。
ああ、獄寺にやられた人か、


「大丈夫ですか?」


手を差し出すと、相手は何故かぎょっとして、逃げ出した。
ん……?あの顔……どこかで見たような気が…。
さっきまでアイツらがいたところに目を向けると、中学名のロゴが入ったバッドが転がっていた。

まさか……。明後日の試合で対戦するとこの……、


「獄寺……!」


傷つかないと、守れないものがある。
そう言った、獄寺の光を灯した強い眸を思い出す。
俺は、俺にはそんな価値はないんだ。獄寺。バカなんだよ、俺、

屋上から出て、必死に濡れた靴跡を辿った。走って、そして、やっと獄寺の背中を見つけた。


「獄寺……っ!」

腕を掴む。

「っ、」


獄寺が振り返って、一瞬、苦痛に眉を寄せた。
急いて袖を捲ると、バッドで殴られた痣が、痛々しく獄寺の綺麗な腕に残っていた。


「獄寺、」

「んだよ、別にテメエの為とかじゃねえからな!喧嘩うられたから買ってやっただけだ」


ありがとう、でも、すまない、でもない。何て言ったらいいか分からずに、痣を睨み付けたまま固まってしまう。

ふい、とばつが悪そうにそっぽを向いた獄寺。
やっと、俺は顔を上げて、獄寺を少し見ることができた。

獄寺の雨に濡れた横顔が、なんていうか…長い睫毛とか輝きを増した濡れ髪とか、なんていうか…獄寺の全部がキラキラして、とても綺麗で、
少し盗み見るだけだったはずなのに、目が離せなくなった。


「責任とる」

「はあ?」

「俺が傷つけたんだ、獄寺を…」


だから、


「責任、とらせて……否、とらせてください!」


獄寺がふ、と笑う。
なんだよ、責任、って。とクツクツ笑った。
俺はその顔に見惚れて、また言葉に詰まる。


「じゃあ責任とって十代目をしっかり守れよ」


あっ、右腕は俺だからな。
と、俺を睨み付けてから、背中を向けてスタスタと歩き出した。


「あ。あと、明後日の試合。絶対勝てよ、やきゅーばーか」


くるりと振り返って、いつもの挑発的なカワイイ顔でそんなこと言われたらさ、
もー、いくらバカでも分かるよ。


「絶対勝つから!カッコいいとこ見に来てな!」

「誰がカッコいいだ、ばーか」


内面も、外見も、獄寺を貌づくる全てに目が離せない。
そうだよ。俺は出逢ったときから、そんな獄寺隼人に夢中なんだ。

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