BOOK04

□F.約束のキスだけ残して
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※24山獄
※召使×主人パロ



坊っちゃんが小さい頃、坊っちゃんの遊び相手として屋敷に住み込んでいた少年がいました。

坊っちゃんと同じ歳の日本の少年で、名前は、そう、ヤマモト、と言いました。

その少年と坊っちゃんは、ずっと一緒にいました。

すごく仲良くしていらっしゃいました。
坊っちゃんが唯一笑顔を見せる相手でしたから。


しかし、その少年は日本の両親から連絡があり、日本へ帰っていかれました。

坊っちゃんは、それはそれは泣きじゃくってしまわれて、それを見るに見兼ねた少年は言ったのです。


“俺、ごくでらの傍にいられるように頑張って勉強して、必ず迎えに行くから”

“だから、そのときは……”



“俺を雇ってな…?”



そう言われて、少年は坊っちゃんに可愛らしいキスをされました。

















眩しい光に瞼を上げると、鳥の囀りと共に入ってくる優しく温かい陽射し。

随分懐かしい夢を見ていた気がする。

起き上がり、眸をまた瞑ってみる。


「二度寝はいけませんよ、ここの主人として皆様に示しがつきません」

「山本…」

「おはようございます、隼人様」


にこ、と微笑むコイツの顔を酷く懐かしく感じる時がある。


山本武。
俺が20になって、この邸の主人になった時に召使として雇った。


本当は俺と同じ歳の外国の男なんか更々雇う気はなかった。

筈なのだが……。
気がつけば、採用していた。
余程疲れてたのだろうか。


「山本、今日のスケジュールは」

「はい。今日は10:00から例のコンピュータ会社の社長との面談後に世界規模に進出できるような品の開発、試作に向けての会議、夜は大手企業ボンゴレの十代目就任記念パーティーとなっておりますが…」


スーツのジャケットに袖を通してから、ネクタイを締める。


「ボンゴレか…。十代目には興味はないが今後のことも考えて行った方がいいかもな…。新しくスーツを仕立ててくれ」

「承りました」


今では最も信頼できる召使の一人だから、いいのだけれども…。




着替え終わり、山本に車を出してもらって後部座席に乗り込もうとして止めた。

助手席に乗り込むと、普段、表情に出さない山本が驚きに目を丸くした。


「隼人様?」

「時間もあるしまだ走らせなくていいぞ。少し話をしよう、お前に聞きたいことがある。」


山本は眉を顰めたが、それは一瞬でまたいつものように微笑んだ。


「私でよければ御相手になりましょう」

「ん、では早速だが…。お前は何で、俺に雇われているんだ?」


山本が驚きに目を開き、眉を上げた。

そんなに可笑しな質問だったか、と首を傾げていると、山本の頬を汗が伝っていくのが見えた。

そして山本の喉が上下した。


「ほ、んとに……覚えていらっしゃらないんですか……」


俯けた顔では表情を見ることはできなかったが、山本の体は微かに震えていた。

何かマズイことをしてしまったことに、今更ながら気がつく。


「す、すまん…」


思い当たる節がない。
記憶を辿って探ってみたが、何も。


山本は顔を上げると、眉を下げて悲痛そうな表情のまま笑った。


「いえ、いいんです。ずっと前のことでしたから…、覚えてる方が……」


自嘲気味に山本が、また眉を寄せて、口だけ笑った。

ああ、俺はなんて情けない。

いつもお世話になっている人にこんな顔をさせてしまう自分が、悔しくて仕方がなくて、無力な自分に嘆く。


そういえば、昔もこんな思いをしたことがあったような……。

泣くしかできない俺は、―――に困ったような表情をさせることしかできなくて。

―――も悲しくて泣きたいってことが、子供の感覚で分かって。

けれど、―――は笑って、

“必ず、迎えに行くから”

泣きじゃくる俺の頭を撫でて、キスをしてくれて……。

“だからその時は……”


目を見開く。

目の前の山本と幼い時に別れた少年の顔が重なる。


“俺を、雇ってな?”










眦が熱くて、気がつけば、頬に幾つも伝っていた。


「山本…」

「ご、くでら…?」


そして山本に抱き着いていた。

山本は獄寺の背中を受け止めながら、目を見開いて、そこから大きな雫をボロッと溢して、ギュッと眸を瞑った。


「今までごめん」


山本が声を出そうとするけど、全部気管に何か詰まったような音しかでなくて、首を横に振った。


「約束、ありがとう。今まで、ありがとう…山本……」


俺はあの時のキスを山本に返した。

唇を押しつけるだけのキス。


涙でぐしゃぐしゃな顔で笑ってみせたら、山本ももっとぐしゃぐしゃな顔で幸せそうに笑ってみせた。




End

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