BOOK03

□F.相合い傘の魔法
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珍しく雨が叩きつけるように降っている。
こんなんじゃ裏の庭で野球もできねえし、雨が重くて思いっきり暴れられねえし、あーマジで憂鬱。
デスクワークなんてさ、

よく獄寺は毎日毎日飽きもせずに書類と睨めっこしてられるよなあ、と思いながら、一通り目を通すフリして捺印を押す。
これが仕事だと呆れられ、しっかり把握してんのかよ!と顰めっ面して怒られそう。

そんなこと頬杖つきながら考えていたら、コンコンと軽快にノックの音が響き、開いた扉から今正に頭の中を占拠していた彼がいた。
邪魔するぞ、と言い顔を上げた瞬間、眉を顰めた。


「ああ、そうか。この鬱陶しい雨はお前のせいか……」

「ひでーのな、俺まじめにやってんだぜ?これでも……あ、」

「この誤字脱字だらけの報告書に軽々しく捺印しやがって…何がまじめに、だ」


お前の辞書の真面目=テキトーなのか?とぐしゃり、と書類を握り潰す獄寺。
あ、やべ。これマジで……


「お前この書類全部片付けて、俺のチェッククリアするまで残業だ!」

「えーーっ!!」


泣きつこうとしたら容赦なく扉を強く閉められた。
うわあ…、ジ・エンド・オブ俺ぇ……

山積みの書類を見て、ガックリ項垂れ頭を抱えた。


――――――――――


結局日付が変わった頃に終わった。
雨はまだ強く降りつけている。

獄寺の執務室に向かいながら思う。
結局獄寺って優しいんだよなあ、と。
だって俺の仕事待っててくれて、チェックしてくれんだもん。
昔から、こういう然り気無い優しさとか気遣いがすげえ好きだ。


「獄寺さーん、チェックお願いしまーす」

「……やっと来たか…。たったそれだけの書類に何時間かかってんだ」


たったそれだけって……そこら辺の女子が両手で抱えてグラグラするくらいの高さは悠にある量なんすけど。

獄寺はため息を吐いて、眼鏡をかけ直した。
書類に目を通し始めたと思ったら、獄寺がパッと顔を上げた。


「お前帰っていいぞ」

「えっ、だってチェッククリアしなきゃって……」

「バーカ、明日も仕事だろ。手直し分は明日でいいから、もう帰れ」

「獄寺ばっかに負担かけて帰れねえよ……」

「少しでもそう思うんだったら真面目に書類整理くらいしろ」


ふ、と薄い唇を上げて笑う獄寺。
長い睫毛が眼鏡越しに揺れる。
窓を叩きつける雨音と、鼓膜に響く心臓のドキドキが煩い。


「……じゃあ待っとく…」

「先に帰れって。邪魔だし、」


こんなときも優しいのな。
本当はいくら獄寺といえどもこれだけの書類チェックするのに時間がかかるからだ。
獄寺は真面目だから、隅々まで目を通してくれるに違いない。

そんな優しさの裏返しだと分かっておきながら、俺は、わかった。としか返せず、ありがとな、なんていつもの調子で獄寺の執務室を出ていた。

バカっ!バカか俺はっ!!
自分のどうしようもなさに呆れつつ、玄関で立ちんぼすることを決めたのだった。

帰るときには、お礼に獄寺をおぶって帰ろう。
寝てもいいぜ、って。車程居心地よくないけど、雨水一滴も獄寺に落とさずに家までしっかり送るからって。

相合い傘する口実にもなるし、獄寺に触れるし、
あーお礼にも下心付きって、やっぱ俺サイテーなのな。

獄寺が優しいから、こんなにサイテーになっちまうんだぜ。
なんてサイテーな言い訳して、傘を握りしめながら、雨よ止むなと空を見つめた。

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