山獄

□a wound for a scab
1ページ/6ページ




「最近獄寺君、元気ないね」


ツナが教室の角の一番前の席に座り、呆っと空を眺める獄寺を見て呟く。
心配そうに顰められる眸を追いかけるように俺も獄寺を見る。
ツナが心配するのも当たり前だ。
いつも休み時間になれば我先にとツナの所に駆けつけていた獄寺が、最近は来ないことが多い。

最近、獄寺が元気がないことは、俺にも分かっていた。
その原因は分からない。
最近俺は県大会が近いこともあって忙しいから、あまり獄寺と話せていない。

お互い我慢しようって二人で決めた。
野球頑張りたいんだ、と困ったように笑ったら、獄寺も仕方ねえなって笑って言ってくれた。
だから安心して俺は野球に専念できた。
俺の意識は獄寺じゃなく、今は常に野球にあった。

だから分からない。
恋人なのに……情けない話だけれど…。


「山本、何か知らない?」

「知らねえなあ…」


間服行為もまだなのに、長袖を着ているということにも今気付いた。

獄寺を見ていない証拠を突き付けられて、獄寺から目を逸らした。
しょうがないと思い込んでも、好きな奴のことが全く分からない自分が情けなくて腹立たしくて仕方なかった。


「獄寺…」


手首をゆっくりと宥めるように擦る獄寺が、自分を自分で守っているように見えて、小さく見えた。
そんな獄寺を見ることのないように俺が護ると決めたのに。

でも今、触れたら、今まで守ってきた何かが崩れそうで、嫌だった。
どうすることもできない。
俺は無力で、一人、拳を力強く握った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ