山獄
□甘党なアイツ
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うちの十年来の恋人は、見るからに大人の男でスマートな外見で涼しげな整った顔してシャープな雰囲気を出しているクセに結構な甘党だったりする。
だから俺はビターが好きでも山本は食べれないから、家に置いてあるチョコレートだってわざわざ取り寄せているカカオ100%のものと、普通に市販されている甘い物と二つある。
コーヒーだって俺はブラック派だが、山本はミルクを3つにガムシロを5つも入れるから正直コイツの舌の味覚神経を疑う。
甘くてこっちがムズムズしてくるような物を、アイツは至極旨そうに嗜むから、まあコイツの好みなんだしいいかな、とか思えてくる。
さてここは十代目の執務室。
久しぶりに三人集まり、優雅なティータイムを行おうというところだ。
俺は自ら準備を申し出て、もう使い慣れたキッチンにいる。
それなりに料理だってできるようになったし、いつもこのキッチンで十代目にお茶を振る舞っている。
棚の一番上に置いてあった十代目専用のティーカップを取り出そうとして、背伸びをして手を伸ばしていたら、影ができて、ひょいと十代目のティーカップを大きな手が取っていく。
見上げれば山本がティーカップ片手に笑っていた。
「はい。俺も手伝いに来たぜ」
「サンキュー…。丁度良かった、お前自分の淹れろ」
「えー、俺獄寺が淹れたの飲みたーい」
「バカ、俺がティーポットに淹れたヤツを自分のカップに注ぐだけだ!それにお前どうせ砂糖やらミルクやらドボドボ入れるんだから誰が淹れたって同じだろ!」
十代目用のティーカップを暖かく蒸したタオルで包み、二つのカップは盆の上にテキトウに乗せた。
「えー同じじゃねえよ?」
「何でだよ」
「獄寺の愛が籠って…ぶっ!」
後ろから俺に抱きついてヘラヘラした顔を俺の顔に近づけてくる山本の顔面を裏拳で殴った。
山本が痛い痛いと喚きながら鼻を押さえて床にゴロゴロとのたうち回っていたけれど俺は完全無視した。