感謝感激雨嵐

□after school Lover
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いつも3階の一つ目の階段を上り終える所ですれ違う。
もうその瞬間が楽しみで堪らない。

彼はいつも茶色の髪を跳ねさせた優しそうな友達の右側にいつもいて、その友人に向かって笑顔を見せている。
それが堪らなく可愛い。

だから俺は友達と歩いていても必ず一番右側に来て、俺の右側を通り過ぎる彼を見つめている。

彼は獄寺隼人と言うらしい。
俺が彼を見ていたことに気がついた友人が有名だぜ、と教えてくれた。
女子からもモテモテで噂によれば男からも告白されている、と。
友達も確かに綺麗な顔してるしな、と否定的な態度ではなかった。
(今更だけど競争率高いんだな…。まあ、可愛いし…それこそ今更だけど……)


(今日も可愛い…)
視線を少し向けて彼を追い、左横にいる沢田さん(獄寺がそう呼んでいた)に可愛らしく笑っている。
透き通るような綺麗な翠の眸が眩しそうに細まって、笑窪を作ってはにかむ獄寺。
可愛いけれど、それが沢田さんに向かっているとなると少し複雑。

そしてサラサラの銀の前髪がふわりと掻き上がって、少し大人の甘い匂いが漂ってくるような気さえする。
その髪のしなやかな揺れに釣られるように立ち止まり振り返って獄寺を追う。
今日は後ろ髪を一つに束ねていて、階段を下りる度にぴょんぴょんと跳ね、白く透き通る項が垣間見える。

思わず息を呑んだ。
ああ、可愛い……。

そのままぼうっと見蕩れていたら、獄寺の胸ポケットからペンが落ちてカラカラと転がった。
獄寺は気がついていない様子で、ああ、どうしよう。と思う前に体が動いて、そのペンを拾っていた。
シンプルなどこにでも売ってそうなボールペン。けれどこのボールペンを宝物にしたい気持ちでいっぱいになった。

そのまま胸でそのボールペンを握り締め、息を吸い込んで肺を冷やし緊張を和らげてから、獄寺に声をかけようとして勢いよく空気を吸い込むようにして口を開いた。


「おーい山本ー!何してんだよ!3限目始まるぜー!」

「あ、え…お、おう!今行くー」


俺の一大決心も無惨にも話しかけるチャンスと共に始まりのチャイムに掻き消されてしまった。
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