感謝感激雨嵐

□曖昧Main
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今日、俺は早く仕事が片付き、半ば強制的に十代目に家に帰れと令を下された。
それもその筈、溜め込んでた仕事や何もかも、この執務室でずっと寝泊まりまでして籠りっきりでやっていたのだから。


俺は家に帰ることが憂鬱で溜め息を吐く。
家に帰りたくない、その気持ちが先走ってからか、何も考えずに車は出さず、重い足取りで歩いて帰ることにした。


お互い、あの家しか帰る所はない。
否、山本はもしかしたら当てがあるのかもしれないが、少なくとも俺にはない。

あの家は自分達が愛し合い、自分達が安らげる帰るべき場所だと。
どっちか一人でも欠ければ、その家に意味は無いんだよ、と。
優しく眸を細めて言ったのはテメエだったくせに。
テメエで家出て行ったじゃねえか。


(エッチの時、声洩れるの嫌だから、どうせなら防音にしようぜ)
(一戸建てがいいよな、やっぱ)
(うわ、家族って感じじゃね?)
(表札は山本でいいよな?!)
興奮を隠せなかったのか、始終ニコニコとしていて、無邪気な子供のようにはしゃいでいた山本がぼんやりと頭に浮かぶ。

家ができた時、“山本”と今時木の板に名前を書いた表札を付けて二人で家を見上げて、アイツは言った―――
(ずっと、一緒にここで暮らそうな)
――――そう、言った、くせに……。

俺は家を見上げて、少し古ぼけて見える表札に目をやった。
まだ名前は山本のままだった。
そのことに安堵の気持ちを隠せない俺が、無性に可笑しかった。
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