お題
□2.興奮するな、もちろんそういう意味で。
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路地裏で喧騒を見かけた。
獄寺かも、と思って足を止めるようになったのはいつからだろう。
前は見ぬふり聞こえぬふりして素通りしてたのに、
ひょいと覗くと、やっぱ獄寺だった。
助っ人入ろーかと背中のバッドに手を伸ばした。
と、同時に爆発音。
舞い上がってくる砂煙に思わず噎せこむ。
おいおい、こんな狭いとこで…、
「獄寺っ」
まだ渦巻く砂埃を払い進むと、立っていた人影が一つ。
俺の声に気付いたのか振り返る。
「こんなとこで何してんだ、野球バカ」
「それはこっちのセリフだ!」
獄寺はボロボロだった。
服は爆破やナイフみたいな傷で所々破れてるし、白い肌にはたくさんの傷があった。顔には殴られた痣、唇の端にも血が滲んでいた。
よく見ると、倒れてるのはざっと数十人いる。
「バカ!来いよ!歩けんだろ?家で手当てするぞ」
「っざけんな!お前の家になんていかねー!」
パシッと払われた手を直ぐに掴む。
獄寺も相当興奮してるけど、俺だって怒ってるんだ。
「離せよ!野球バカが俺といたら誤解受けるだろーが!テメエただでさえバカなのに行く高校も無くなるぞ!野球もできなくなるかもしれねーんだぞ!」
こんなボロボロなのに、どこにそんな力があるんだろう。
意地でも動こうとしない獄寺を逆に引き寄せて、その体を抱き締めた。
ほっせー、こんなに、
なんで、こんなに、心臓を鷲掴みにされたように苦しいんだ。
「やべえ、興奮するかも」
「は…?」
漸く状況に気付いたらしい獄寺が暴れだすけど、更に強く抱き留めた。
ダメだ、加減が効かねえ。
「お前の血、見てたら、興奮したかも…」
べろり、と血が滲む唇の端を舐めた。
痺れたのか、獄寺が一瞬悲痛に顔を歪めた。
「もちろん…そーいう意味で、」
獄寺が自分と関わるな、という優しさも分かる。
応えてやりたいけど、俺はもう刀握った日からこっちの人間なんだよ、わりーんだけどさ。
なあ、野球できなくなっても、例え腕が無くなっても、お前といたい、って言ったら、獄寺は怒る?