お題

□4.彼は今日から女の子?
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盗ってきちまった……。

切らした息をぐっと呑み込み無理矢理整えて、俺はずっと握り締めていた掌をそっと開く。
中からピンク色の小瓶。

あれは数日前のことだった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「おい、痛み止どれだよ」

「ああ?あんだろ、飲み薬のやつ」

「ちっくしょー、だいたい姉貴の奴が……あっ、これか?」

「ああ…あっ!!」


シャマルが飛んできて俺が手に取った小瓶を奪った。
何だよ、んな動けるんだったら最初から薬処方しろよヤブ医者。


「これは漸く手に入れた性転換シロップ〜nyotaikan〜だバカ野郎!」

「せーてんかん?アホらしっ。それより痛み止よこせ」

「テメエなあ…。おっ、そうだ隼人試してみろよこれ」

「俺は暇人じゃねーんだよ」

「可愛く女の子になれたらオジサンが抱いてやるからさ」

「代償100万な」

「冗談が通じねえな。お前の愛しの野球坊主も絶対喜ぶぜー?」

「…………くだらねえな」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



あのヤブ医者が珍しく職員会議に出てるのを見計らって、保健室に忍び込み盗んできた。

本当に女になるんだろうか…。
山本の気が、少しでも長く、俺にひけるのならば……。

山本が本当は女が普通に好きだって知っている。グラビアだってAVだって本当は捨てていないの知っているし。

く、屈辱的だし、こ、こんな……けど、お、俺だって男だ。一度覚悟を決めたことは…やり通す…!


「獄寺っ!」

「や、山本…」

「なにしてんの?もう少しで授業始まるぜ…て、何持ってんの?」

「あ…」


ひょい、と小瓶を山本に取られて、手を伸ばしてみるけど、もう取り返せないことは目に見えていて、直ぐに諦めた。


「何これ?ローション?」

「は…?」


山本の顔がどんどん険しくなっていく。
俺の超直感が働く。あ、これはヤバい…、と。


「他の奴とやるつもりだったのかよ?」


まずい…。山本がじりじりと俺に詰めよってくる。
壁に背中をついて、山本の腕で囲われたことで、冷や汗が伝うのを感じた。

山本が俺に逃げ道をつくらせないときはマジギレしている時だ。


「なあ、どうなんだよ?返答次第じゃ穏やかじゃねえことになるよな」

「っ…」


もう十分穏やかじゃねえじゃねえか!
なんて泣きたくなる。

俺は観念して全て話すことにした。


「お…、女の子になる薬だ……」


山本が不意を突かれたような顔になる。
そして、なに、獄寺女の子になりたかったの?なんて言ってきやがった。
俺は直ぐにそれを否定して、また俯いた。


「お前…女が好きだから……」

「は…?それで獄寺が女の子になろうと思ったの?」

「っ、だって、俺、男だし、ずっとこのままって訳にもいかねえし…、飽きられるのも時間の問題だと…思って……」


山本が、はあ〜〜、と盛大なため息を吐いた。
そして俺に脱力したように覆い被さってきて、抱き締めてくる。


「俺ってそこまで信用ないかなー…」

「あ…」

「ごめんな、不安にさせちまってたんだな……」


頭を包まれるように撫でられる。

そして山本は床にあの小瓶を落として、割ってしまった。
あ…、と思わず広まる液体を見ていると、獄寺、と真摯な声で呼ばれ顎を捉えられた。


「獄寺が女の子になったら獄寺が獄寺じゃなくなっちまう。そんなの嫌だよ、俺 」

「山本……」


ぎゅう、と強く抱き締められる。
廊下の隅。もう授業はとっくに始まっている。
俺は山本の背中にそっと手を回した。


End



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シャマルは事実を知った後、ショックで一週間寝込んでしまいましたとさ、というオチww

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