お題
□10.ああっもう、
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「ちょっ!おい!待てよ!」
獄寺の細い手首を掴む。
チャラと揺れたシンプルな銀のバングルは確か、隣町の獄寺を慕う不良から貰った物だと言っていた。
気にくわない思いを噛み殺し、漏れそうな舌打ちを飲み込む。
代わりに刻まれた眉間の深い皺が不機嫌な様子を顕にしているような気もするが、もうそこまで気にしてられる余裕はない。
「んっだよ!離せ!!」
「っ、何でそんなにキレてんだよ!」
「キレてねぇよっ!!」
獄寺が強く腕を上下に振って俺の手を振り払った。
ハァハァと息を荒げながら俺を睨み付け、ふいと俺に背を向けた。
いつの間にか、ここは屋上だったのか、と吹き抜ける風で気づく。
熱を持った体には気持ち良いが、今はそれを悠長に感じている隙はない。
「獄寺…っ!!」
「っテメエが、俺を避けてるからだろっ!テメエがっ、勝手、に…」
獄寺の背中が小さく震える。
獄寺らしくない、寂しくて細くて弱そうな背中。
だって、だって、お前といるとドキドキが止まらないんだ。
好きだって言っても、俺の自己満足で終わることは分かってるから。
だから言えないのに、気持ちばかり先走って苦しいんだよ。
でも、お前にそんな悲しそうな無防備な背中されるくらいだったら……。
「もう…、俺なんか、ほっと…!」
ああ、もう!
振り返った獄寺を抱き竦めた。
「言うつもり、無かったけど…」
ああ!もう……本当に……。
―――――お前が、好きだよ。
End