お題

□07.こんなときに
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「タイミング悪ぃ……」


今日こそは獄寺に告白しようと思い、獄寺を探して校舎裏に来たら、獄寺が告白されていた。
俺は慌てて顔を引っ込めてコンクリートに背中を引っ付けて隠れた。

本当、タイミング悪い。
昨日も一昨日もその前も、獄寺はツナにべったりだったり告白されていたりで、中々二人きりになれるタイミングがなかった。

溜め息を吐いて、諦めようと踵を返した
―――その時、獄寺の真摯な声が俺の耳を通り抜けた。


「俺、好きな奴いるから」

「え…」
(ええええええ!!)


思わず漏れてしまった声を隠すように口を両掌で覆った。

そんなの聞いてねえよ!ひでえよ。
そんな…こと……。……聞いてない…。

何だよ…失恋かよ……。
玉砕するなら正面からふられたかった。
こんなのまでタイミング悪い。


「ふふ、うん。そうかなって思ったの」


相手の女の子が柔らかく笑った。
すげえな、って、何で笑えるんだよ、って思って、微かな苛立ちを覚えた。


「山本君でしょ」


そんな自分でも嘲てしまうような苛立ちも一瞬で吹き飛ぶ程、
一瞬にして空気が固まった。
(う、そ……)
息を呑んで、そーっと壁の角を掴み、顔を出して、二人を見つめた。

鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔で固まる獄寺。
その獄寺の顔がじわじわと染まって、俯いてしまってその表情は見えなかったけど、確かに頷いた。

やっぱり、と笑う女の子の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
真っ赤な顔の獄寺は困ったように笑っていた。

俺はその場でボロボロと溢れる涙を隠すよう顔を覆って、唇を噛み締めて泣いた。
暫く泣きじゃくった。
鼻水を啜って、ひっ、と嗚咽が漏れてしまい、獄寺に見つかって、ひっでえ顔と笑われた。

こんなに泣くの初めてで、逆にこんなに泣くほど嬉しいんだ、と思った。

あの女の子はもういなかった。
獄寺と二人きり。
タイミングがいいんだか悪いんだか分からない。

好きって、俺も好きって、言いたいのに
こんなときに言葉は嗚咽に変わり、上手く伝わらない。


それでも伝えたくて、獄寺を引き寄せて抱き締めた。



End

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