ロックから「一緒に料理をしよう」と、自宅である寮に招待された。
学校で親しくはするし、下校が重なれば少しだけ寄り道をしたりもする。しかし今まで二人で出掛けたりした事はなく。
突然そんなことを言われたものだから、凄く驚いた。照れ屋であるロックのことだから、尚更。
家を訪ねるのは初めてで、緊張を和らげる為に深呼吸をしてから寮のドアを叩くと、いくばくもなくして開かれる。出てきたのはロックだ。
「入って」
言葉少なに家に上がり込むことを許され、ロックの後を追う。保護者代わりの体育教師、テリーは不在のようだ。
案内された先はキッチンであった。男所帯と聞いていたが、そうは思えないほど綺麗にしてある。彼の性格が伺えるような、そんなキッチンだ。
「ほら、エプロン」
料理をすると聞いていたから自分でも用意してきたが、それは出さずにロックに渡されたものを受け取って身に着ける。普段彼が使っているであろうものを着られるのが、なんだか嬉しい。
「ジャンバラヤでいいか?」
そう言いながら、返事も聞かずにロックは既に米を研いでいる。ジャンバラヤなど作ったこともないが、ロックと一緒なら心配ないだろう。料理の腕はプロ級であると、いつかテリーから聞いた。
「そこに用意してある野菜をみじん切りにしてくれ」
「うん」
「ソーセージは小口切りな」
少々狭いキッチンに並ぶと、距離が近くなることに気付く。肩が触れ合いそうで、少しそわそわしてしまう。
それでもロックから細かな指示が飛んでくるので、自然と会話が弾んで浮き足立つような気分も忘れ、とても温かで楽しい雰囲気になっていた。
「...ロック。どうして急に、料理なの?」
誘われた時からずっと思っていた疑問を投げかけると、ロックはフライパンを振るう手を止めた。こちらを見て顔を赤くすると、視線を泳がせる。
「......別に」
「教えてよ」
「たいした事じゃない」
「なら、言ったっていいでしょ」
ロックは言葉を詰まらせたあと、しぶしぶ、だが覚悟を決めたように口を開いた。
「俺は喋るのが得意じゃないけど、料理をしながらなら、上手く話せると思っただけだ」
作業を再開させながら、ぶっきらぼうに言う。
「...もうすぐ三年だし、学校でもあんまり話せなくなるだろ。だから今のうちに、お前と色々...話しておきたくて」
ロックが転校してきてから徐々に交流を深め今に至る。
春になって進級すれば受験の色が濃くなり、互いに忙しくなって、顔を合わせることも少なくなるのかも知れない。
「大学、どこに行くつもりなのか聞きたかった」
ロックの顔は今まで以上に赤くなっている。それだけで分かった。きっとこれからも離れてしまうことなく、気持ちを通わせながら隣にいられるだろう。