series2

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※キャラ崩壊、下ネタ注意









「おい」

どこからともなくリビングに顔を出したシェンが珍しく小声で呼び掛けた。彼は喋る時、大体声がでかい。なのでそんなたいへんめずらしい声音を聞き、各々作業をしていた手を止めて紅丸とアーデルハイドは長男の顔を見遣った。

「お前らどっちか、女連れ込んだか?」

続けた言葉は一層に小声で、リビングに静かに溶ける。

「はぁ?何だよいきなり」
「…女?」
「女だよ女!この家に連れ込んだかって聞いてんだよ」

ソファに脚を開いてどっかりと座り、尋問するように弟達を見つめる。紅丸とアーデルハイドはお互いの顔を見合って訝しげに首を傾げた。

「私は女性を連れてきたことなんてないけど…紅丸兄さんは?」
「俺もないな。つうか一番連れ込みそうなのはお前だろ、シェン」
「お前らがいるのに連れ込むわけねえだろ!」
「でも、どうしたの?シェン兄さんがそんな事を聞くなんて初めてだ」
「殴られすぎてトチ狂ったか?」
「いや俺だって別にお前らの下半身事情が聞きたいワケじゃねえよ。ただ、あいつが…」

そう言ってシェンは、ポケットからくしゃくしゃに丸まった白い布を取り出して見せた。

「あいつが、ショック受けると可哀想だからな。まぁ洗濯機の脇に落ちてたから十中八九あいつのだとは思ったけどよ、万が一ってのもあるし。わるいな、変なこと聞いちまって」

意味深なことをぽつりと呟いてその布を握ると、もう一度ポケットに突っ込んで立ち去ろうとする、が「おいおいおいおい待てよ」紅丸がソファの上のビーズクッションを、シェンの背中に勢いよく投げつけた。

「あァ!?」
「兄さんの言ったことがよく分からなかったんだが…?その、つまり何だって?」
「子猫ちゃんがショックを受ける?なんの事だ?連れ込んだどうだってのと関係あるのか?」
「ちゃんと言ったろうが!わかんねえ奴らだな!だからこれがあいつのじゃないのに、これお前のだろって聞いて違ったらショック受けるだろ!」

シェンはソファに座り直すともう一度ポケットから布を取り出し、手を広げて見せた。二人はシェンの手のひらを覗き込む。あらゆる角度からまじまじと観察する。

「もう一度聞いてもさっぱり要領を得ないな…」
「で、子猫ちゃんのだってその布は何なんだよ?ハンカチか?」
「は?見りゃあ分かるだろうが」
「見ても分からないよ、兄さん。それは何です?」

訊ねられると、シェンはパッと顔を赤くした。
「あー」だの「うー」だのうめき声を上げて、頭を掻いて照れている。こいつは何で照れてるんだと弟達に気味悪く思われている中、覚悟を決めたようにごほんとひとつ咳払いをすると。

「…ん、あー、…………パンツ、だろ」

兄の言葉に、しん…と静まり返る。

「ん?」
「よく聞こえなかったな」
「聞っこえてんだろうがっ!!だからパンッ…だっつうの」
「誰の?」
「だからっ!お前らが女連れ込んで脱がせたんじゃなかったらあいつの……ッ!…パン…ッ…だろうが!恥ずかしいこと何回言わせんだよ!」

妹のパンツを固く握り込んだ手でドンッ!とテーブルを叩く。二人の視線はシェンの右手の中のものに釘付けになっている。

「それがパンツだって?信じられないな」
「そうだ兄さん。それを広げて…ンッ 見せてください」
「いや待てアーデルハイド!逸る気持ちを抑えきれないのは分かるがこの家にはもう一人男がいる!!」

紅丸の言うもう一人の男とは、今はテコンドーの練習に行っている四男のジェイフンである。いくら生真面目で正義を重んじる彼と言えども男は男だ。

「紅丸兄さん…ジェイフンの可能性はないんじゃないか?」
「俺もそう思うぜ。アイツはそんな性格じゃねえよ」
「でもジェイフンには…試合の時に必ず傍にいる女の子がいる」

!!!!!
シェンとアーデルハイドは忘れていた!とばかりに目と口を開いて驚愕した。
ジェイフンの試合の応援に行くと、甲斐甲斐しく世話を焼くピンクの道着を着た女の子が必ず親しげに彼の傍らにいた。

「電話…してみるか」

シェンは言いながら既に携帯を取り出している。ついでにもうジェイフンの番号を呼び出している。紅丸とアーデルハイドはシェンの耳に当てられる携帯に顔を寄せた。

「もしもし?どうしたの兄貴」
「おお、ちょっと聞きたいことがあってな」
「何?もうすぐ練習再開するからあまり長く話せないよ」
「ん。お前、家に女連れ込んだか?」
「え?」
「だから女」
「ピンクの道着の女の子だ!」
「いつもヤカン渡してる女の子だよ!!」
「うわっ…ちょ、うるさっ。いや連れて行った事なんてないよ。それに何回も言ってるよね?その子とは何ともないって」
「本当に連れ込んでねえんだな?」
「本当にパンツ脱がせてないんだな!?」
「うわこわっ当たり前でしょ…は?え?パン…?脱がせる?」
「分かった、すまねえなジェイフン」
「ちょっ!なんの話待って兄貴」

電話の向こうで喚くジェイフンを無視して通話終了をタップした。三人の視線はシェンの手の中の妹のーーーパンツーーーに落とし込まれる。

「間違いないようだね」
「いや最後は見て判断しなきゃダメだ。シェン、それを見せろ」
「見なくても分かるだろ。誰も身に覚えがないんだからあいつのだろ?」
「馬鹿野郎!なーにこんな時だけいい兄ぶってんだ!」
「シェン兄さんは見たん…だよね?それなら一人だけずるいんじゃないですか」
「ぐっ!………しゃあねえか…」

シェンは渋々とだが、スッ…とくしゃくしゃになってはいるがなめらかで手触りの良さそうなそれを宙に広げた。三角の形は、まさに皆がよく知るところのパンツである。
兄によって掲げられる妹のパンツを、弟達は食い入るように見つめている。

「ングッ…ほ、本物だ」
「目の前に子猫ちゃんのパンツが…長年一緒に暮らしていても中々起こることの無いラッキースケベが今ここに…!」
「白い…可憐に咲く白百合のように白い」
「大天使ミカエルの羽のような純白…」
「何も描かれていない真っ白なキャンパス」
「野に降り積もる新雪」
「ウエディングドレス」
「真珠」
「砂糖」
「豆腐」
「よくもそんだけ白いもん連想できるな。最後の方雑だけどよお」

シェンのツッコミに耳も貸さず、二人は神々しいものを仰ぎみるように目を細め、うっとりしている。

「似合う…似合いすぎる…いや私の想像通りだ。あの子には白がよく似合う」
「わかる…わかるぞアーデルハイド…。控えめなレースとセンターにさり気なくあしらわれた小さなリボン…子猫ちゃんの清楚さが具現化されたようなパンツだって言いたいんだろ」
「おいおい、ちょっと待て妹のモンで興奮してんじゃねえよ!エロくもなんともねえパンツだぞ? 」

さっとパンツを隠そうとするが、両腕を二人にガッチリと捕らえられて隠すことができない。

「コラッ!てめぇら落ち着け!よく見ろいや見るな!紐だったり透けてたり黒だったり赤だったりでヤル気満々ですって感じがするわけじゃねえんだぞ!?いやあいつがヤル気満々なパンツ履いてたらめちゃくちゃショックだけどよ!こんな色気もなにもねえガキが履くようなモンを…!」
「いやうんシェン兄さんの言う通りだ」
「ああ、わかるぞアーデルハイド。子猫ちゃんが紐だったり透けてたり黒だったり赤だったりするのを履いていてもギャップがあっていいって言いたいんだろ。誰かの為に履いてたら俺の心は傷を負うけど」
「さすがだ紅丸兄さん。しかし私は紺色のレース多めのも似合うと思うんだ」
「わかるぞアーデルハイド。あの白くてむっちりしたお尻にはそれもよく合うだろうな」
「可愛い妹にヘンな想像してんじゃねえよ!大体俺は、あいつに知らねえ誰かのパンツを渡しちまったら、この家で俺らの誰かがやらしいことしてるってショック受けたらマズいと思って聞いただけなんだよ!お前らに見せるために持ってたわけじゃねえんだ!これはあいつに返してくるから離せっ!」

鼻息荒くテンション高ぶりまくりでパンツの何たるかを語る紅丸とアーデルハイドを自慢の腕力で振り切って立ち上がる。むんずとパンツを掴み、二階の自室で勉強をしている妹のところへ向かおうとすると。

「幻影ハリケーン!」

シェン目掛けて紅丸が繰り出した幻影が次々とヒットする!
最後に紅丸本体が手中にあったパンツを奪った!

「決まったな」
「なにしやがる!」
「これは俺が子猫ちゃんに返す。そして羞恥に頬を染め恥ずかしがりながらも感謝される…その役は俺が貰う」
「そんな事言って、匂い嗅いだりする気だろうが!」
「!?」
「なに!?紅丸兄さんそんなことをしようと…?それは許しておけない!ハァァーーーッ!」

アーデルハイドは目にも止まらぬ速さで紅丸に突進した。本来ならば掴んで壁に叩きつけるものの、今回はパンツの奪取が目的だ。一瞬のうちに掠めとったそれを大事そうに両手に包み込む。

「これは何たる柔らかな触り心地…しかも濡れていないいやこれはいやらしい意味ではなく洗濯の後で濡れていないと言うことで洗う前つまり一日履いた後…ウッ!」
「家ん中で超必かますんじゃねえよ!うおお!うらァーー!」

超必をかますなと言ったすぐあとに自分も超必をかます。
振りかぶって殴るところを、アーデルハイドの手めがけて拳を突き出す。

「やっぱりお前らには渡しておけねえ!俺は天に誓ってヘンなことはしないからな。これは俺が責任を持って返す!」
「ちょっと!ドタバタうるさいんだけど何してるの?」
「!?!?!?」

声がした方へと、三人が一斉に振り向く。
妹が立っている。ただ普通に立っているだけなのに、後ろめたいことがあるからか、三人にはとても恐ろしく見えた。シェンは驚くべき早さでパンツをポケットに入れ、弟達はサッと兄の前に立ちはだかり、壁を作った。
これはまずい。バレたか?バレていなくとも、三人でこうして集まっているところを見られた以上、パンツを渡したら冷たい目をして「お兄ちゃん達気持ち悪い。嫌い」と言い捨てられてしまいそうだということは想像するに容易い。こっそりと、視線だけで会話をする。全員の思考が一致した。つい先程まで対立していたが、今この瞬間共闘することに決めたようだ。

「宿題してるのにうるさくて集中できないよ」
「ああ、ごめんな子猫ちゃん」
「なんか激拳してなかった?それに、返すとかなんとか聞こえたけど」
「いやそれはほら、肩をこう、激拳の要領で返すと、肩凝りにいいってシェン兄さんが」
「そうそう!アデルと俺が肩凝っててな!」

紅丸はリビングのローテーブルの上に広げてあるノートパソコンを指さす。ふーん、と妹は納得したように頷いた。バレてはいなかったようだ。

「激拳って肩にいいんだ?」
「この家だけで流行ってるんだよ。武神直伝」
「絶!激拳」
「肩凝り解消法」
「ふふっ、ださい名前」

「ほーんと、シェンは短絡的な技名しか付けないからなハハハ」と笑いつつ、紅丸とアーデルハイドはずいずいと前に出てシェンを隠す。
行 っ て こ い
紅丸が後ろ手にハンドサインを出した。即座に理解したシェンは気配を無くして二階に消える。

「それよりちょうど3時だ。休憩でもしたらどうかな?ケーキがあるよ。食べるかい?」
「うーん、ジェイフンいないからケーキは夜みんなで食べようよ」
「じゃあチョコレート食べるか?高級ブランドのやつを撮影の時に貰ったんだ」
「ほんと!?食べる!」

いそいそと妹をダイニングへ押しやり、紅茶やらチョコレートやらを用意し会話を盛り上げて包囲網を展開させれば、もう自室へと戻ることはできない。しばらくして、シェンが静かにダイニングに姿を現し、顔の前でぐっと右手の親指を立ててみせた。それを見て、弟達も親指を立てる。ミッションコンプリート。見事な連携プレー。

「どうしたの?急にサムズアップして」

一人何もわからずきょとんとする妹に、三人はほっと胸を撫で下ろしながら穏やかに笑ってみせた。
こうして血の繋がらない義兄弟は、くだらないピンチを乗り越える度に、そこらへんの実の兄弟よりも絆を深めていくのであった。

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