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3月14日、土曜日。

「ショッピングでも行こうか」

アーデルハイドと朝の洗濯物を干し終わった時、ちょうど自室から出て来た紅丸がショッピングへ行こうと声をかけてくれた。
勿論、反対なんてする訳がない。

「行く!」
「じゃ、決まりな。準備が出来たらすぐに出るか。アデルも行くだろ?」
「うん。ご一緒させて」
「ジェイフンは道場行ってるけど、シェンは?」
「少しほど前に出掛けたようだけど…」
「あいつは気にするな」

せっかく出かけるならみんなで一緒に行きたかったけど、いないのなら仕方が無いか。
特に今日は、いつも忙しくて、たまにしか土日休みがない紅丸とアーデルハイドがいる日なのに。
中々そう上手くは行かないものだ。

しかし兄達との久々のショッピング。
今の時期は可愛い春物も沢山出ていて、この前、学校の帰りに友達と近所のモールに行った時は見てるだけだったけど、近い内に買いに行きたいなって思っていた所だったし、存分に楽しむしかない。
手早くおしゃれ着に着替え、髪を纏めて、いつか使おうと取って置いたお年玉を持って、紅丸の車で家を出た。


「さて、まずは何処から行こうか、子猫ちゃん?」
「えーっと、ねぇ…」

家から車で二時間程の所に、半年前に新しくできたこのモール。
とても広くて、何でも揃っているのだが、特に女性の服屋が多く入っているのがここの売りらしい。
アーデルハイドが広げてくれたフロアガイドを覗き込み、安価で可愛い服が売っているお気に入りの店を探す。

「今日はホワイトデーだから、欲しいもの何でも買ってあげるよ」
「え…?本当?」
「ホント。服でも靴でも鞄でも、値段なんか気にせずに言え!」
「バレンタインのチョコレート、手作りしてくれたから。お返しだよ」
「紅丸…アーデルハイド…」

ああ、持つべきものは金持ちの兄!
1枚78円の板チョコを溶かして固めて、ちょっと可愛らしくデコレーションしただけのチョコレートが、服や靴に変わるだなんて!
特に紅丸はファッションセンスがいいから服を選んで貰えるし、神様ありがとうございます。

「まず最初は、この店がいいな」
「よし。お手をどうぞ、お姫様」
「じゃあ右手は俺が貰おうかな」

兄達を侍らせて歩くのは少し気恥ずかしいけれど、やっぱり嬉しいし、くすぐったい気分になる。

それからいくつもの店を周ったが、二人は文句一つ言わずに付き合ってくれた。
紅丸とアーデルハイドのどちらが代金を払うか揉めたりしていたけど。
お昼も三人で食べて、また少し歩いてからゆっくりお茶をして、夕方やっと帰路についた。

「そう言えば、夕飯のおかず買ってこれば良かったかな」
「大丈夫だよ。さっき連絡したら、ジェイフンが何かしてくれてるみたいだから」
「ジェイフンが?帰ったらすぐ手伝ってあげなきゃ」

朝早くからテコンドーの道場に行ってたみたいだから疲れて帰ってきてるのに、申し訳ない事しちゃったかな。
その前に、シェンは何やってるんだろう。ジェイフンを手伝ってたらいいけど、当てにならないし。

土曜日だからだろうか、大通りはだいぶ混んでいて、裏道を通ったけれど家に着いたのは7時前だった。

「ただいまー!」
「お帰りなさい。随分遅かったね」
「渋滞に巻き込まれたんだよ。腹減った」
「すぐにご飯にしよう!もう出来てるから」
「いい匂いがするね」
「ほんとだー」

玄関にいるのに凄くいい匂いがして、余計にお腹が減る。
荷物をリビングに置いてダイニングへ向かうと、シェンが腕を組み、大股を開き、踏ん反り返って椅子に座っていた。

「遅ぇよ!」
「ごめん、あ!ジェイフンのチゲだ!」
「今日はホワイトデーだから特製チゲだよ。ケーキも買ってきたから」
「ジェイフン…ありがとう…!」

ジェイフンのチゲ、辛いけど美味しいんだよね。
しかもケーキまであるなんて、やっぱりチョコレート作って良かった。

「馬鹿野郎!俺もお前の為に蟹買ってきてやったんだぞ!」
「あれ、シェンもありがとう!」

鍋に隠れていて見えなかったけど、よくよく見れば茹でた蟹がお皿に盛られている。
私の為とか言いつつも、これ、シェンが食べたかっただけだと思う。

「ったく、ほら、蟹剥いてやるから隣に座れ。おい紅丸、お前あっち行けよ」
「なに寝言言ってんだ!お前がどけ!」
「蹴んじゃねぇよ表出ろ!」
「ほら、アデル兄さんと僕の間においで」
「蟹食べるかい?」
「アーデルハイドもジェイフンもシェンも紅丸も、みんな本当にありがとう!」

来年も絶対に作ろう。そう、毎年思ってる。
だってお返しが、三倍以上になって返ってくるから…。

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