series2

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とある日の朝、家族全員で朝ご飯を食べていると神妙な面持ちの紅丸が、手に持っていた箸と茶碗を置いて、言った。

「いいか、みんな。よく聞けよ」

紅丸は起きてきた時からなんだか元気が無くて、食べている時もずっとだんまりだったので、私は何か心配事でもあるのかと思っていたのだ。
紅丸の深刻そうな言葉に、みんな一様に箸を止めて注目した。

「子猫ちゃんが家に男を連れて来たいそうだ」
「!?」

子猫ちゃんと言うのは私の事で、紅丸が言った「男を連れて来たい」というのは、昨日私が紅丸に相談した内容のこと。

学校で仲良くなったクラスメイト、楓君とテスト前の勉強を一緒にやろうと約束して、図書館はいつも混んでいるし、それなら私の家でどうだろうと提案した。

それから家に帰って、シェンは長男だけどニートだから権限はないので、次男の紅丸に相談したのだ。
紅丸は、聞いているのか聞いていないのか分からないような生返事をしていただけだけど。

「なんで言うの!?」
「仕方が無いだろ。俺一人で結論を出す訳にはいかない。これは重大な議題だ」

特にアデルには絶対に反対されるから、聞かせたくなかったのに。

「昨日みんなには内緒にしてって言ったのに!」
「うん?内緒?」

一番耳に入れさせたくなかったアーデルハイドが、目が笑っていない笑顔をしている。

「内緒にしたかったって言うのは、聞き捨てならないね」
「ち、違うのジェイフン!」
「違う?何が違うんだい?」
「やましい事がないなら、是非聞かせて欲しいね。その男の名前と住所とどんな関係でどこまで進んでて何で家に連れて来たいのか、お兄ちゃん達に教えてくれるかな?」

アーデルハイドが早口でまくし立てたから、半分何て言ったのか聞き取れなかったけど、これだけは分かる。凄く怒ってる。
紅丸もジェイフンも、アーデルハイドの言葉にうんうんと首を縦に振っているし、シェンは「我関せず」って感じで黙々とご飯を食べている。
ちゃんと話して、みんなにお伺いを立てるしかなさそうだ。

「楓君っていう同じクラスの男の子と一緒にテスト勉強したいの」
「どうしてその男の子と勉強したいの?」
「楓君、教えるの上手だから」
「本当にそれだけ?嘘はついてない?」
「アデル!信じて!」

嘘偽りない真剣な眼差しをみんなに向けてみるけど、三人共相変わらずじっとりとした雰囲気を醸し出していて、聞こえるのは、シェンがご飯を食べる音だけ。
沈黙を破ったのは、額に手を当て眉間に大きな皺を寄せている紅丸だった。

「一番の問題は、子猫ちゃんがその野郎を好きなのかどうかだ」

それを聞いてか、シェンは食事の手を止めた。箸を置いて、この重苦しい空気に加わる。
私の唯一の助けになるかも知れなかったシェンも、こうなってしまうなんて。
四人の目が、私だけを捉える。

「ただのクラスメイトだって!学友だよ!......一緒にいると落ち着くけど」

そう口早に言ってから、ハッとした。
つい本音が出てしまったが、学友だよの後は、今は絶対に言うべきじゃなかったと。

「落ち着く?」
「どう落ち着くのかな?何で落ち着くのかな?」
「それは僕達といるよりも落ち着くの?」

みんなが同時に声を荒げるから怖い。
たかがクラスメイトを家に呼ぶだけで、こうなるなんて思いもしなかった。楓君ごめんね。約束は守れそうにないよ。
こうなったらもう、本当の事を全て話してしまおう。

「だって、楓君の声がシェンに似てるんだもん!」

私がそう言うと、三人は一斉にシェンを見る。
だって、ふとした時の声が本当にそっくりで、びっくりしたんだ。

「おい!何で俺を見るんだよ!俺は何も言ってねぇぞ!!」

紅丸は隣に座っているシェンの足をおもいっきり蹴った。
アーデルハイドとジェイフンは鋭い眼光を向けている。

「待て待て待て!俺は悪くねぇだろ!第一、声が俺に似てて落ち着くなら、俺の声だけ聞いてりゃいいだろうが!」
「やだよ。楓君は、声は似ててもシェンみたいに乱暴な話し方はしないし、すっごく優しいの!」
「......そうか」

シェンは椅子から立ち上がり、歯を向いてニヤリと笑う。
それが合図だったのか、他の兄達もシェンに習った。

「え?なに?」
「そんな事言うやつにはお仕置きで、満場一致だよな?」

全員、コクリとする。

「激拳か鳳凰脚か雷光拳かキッケンか、好きなの選べ」
「ひええ...選べません...」


その後私は二ヶ月間、平日は学校への送迎付きでどこにも寄り道できず、休日は自宅謹慎で、出かける時は必ず誰かと一緒じゃないといけないという刑に処された。

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