series2

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私は、一軒家で四人の兄達と暮らしている。とは言えども、血が繋がっている訳ではない、義理の兄弟なのだが。

「おい、まだ出来ねえのか?」
「まだです。うろうろしてないで、座って待っててよ、シェン」

料理中の私の傍を急かすように歩き回り、夕飯の催促をするのは、長男のシェン。
いわゆるニートで、普段は家にいるか外でフラフラしている。

「なあ、腹減った」
「だから、待っててって言ってる!」

少々キツめに呟くと、シェンは慌てて私の顔を覗き込んだ。

「…怒ったのか?」
「怒ってないよ」
「本当にか?」
「本当に」
「…良かった」

30歳も目前なのにケンカは好きだし、ちょっと馬鹿だけど、何だかんだ言って妹思いな所がある。
そして意外にも常識人であり、稀に開かれる家族会議では司会をする。

「こら。あんまりシェンをいじめちゃ駄目だろう?」
「アデル」

今週のご飯当番である私を手伝ってくれているのは、三男のアーデルハイド。
この人のお陰で我が家の家計が助かっていると言っても過言ではない。よく判らないが、凄い仕事をしている。
 
「別にいじめてる訳じゃないよ。シェンがうるさいだけ」
「そんな言い方したら可哀想だから、優しくしてあげなきゃ」
「シェンもアデルみたいに優しかったら、私だって優しくするよ」

アーデルハイドはこの家の中で一番優しい。
爽やかで物腰柔らかで面倒見の良い彼は、いつも私を助けてくれる救世主だ。

「出来たおかずはテーブルに運んで良いのかな?」
「あ。お願い!」
「ああ。茶碗とかも出しておくからね」

夕飯の準備を整えてくれているのは、四男のジェイフン。
真面目な大学生で、テコンドー同好会で毎日汗を流している。
正義をこよなく愛しているらしい。

「ジェイフン、ありがと」
「どういたしまして。もう手伝える事は無いかな?」
「もう良いよ。ジェイフンも座ってて」

よく気が付くし、性格は穏やかでアーデルハイドの次に優しいのだが、少し口うるさいし、悪い事をするとかなり長い説教が続く。私の教育係になっている。

「さ、ご飯出来たよー!」

最後に出来上がった料理をテーブルに乗せたと同時に玄関が開く音がしたので、私はエプロンを外して飛び出した。

「ただいま」
「紅丸。お帰りなさい!丁度ご飯出来た所だから」
「ずっと会えなくて寂しかったよ」
「朝会ったでしょ」

仕事を終えて帰宅したのは、次男の紅丸。
素晴らしい容姿を活かしてモデルをしているが、稼いだお金は女性に貢いだりして消えている、結構なナンパ野郎。

「ずっと一緒に居ないと、俺はお前が恋しくて仕方なくなるんだよ」

そう言って、私の頭を撫でる。
それからぎゅっと抱きしめられた。

「ちょっと紅丸、離してよ!みんな待ってるから」
「そんなの関係無いよ。可愛い妹を独り占めさせてくれ」

長々と続く紅丸の台詞を彼の腕の中でうんざりとしながら聞いていると、ドタドタと数人の足音がこちらへ向かって来た。

「なにやってやがんだ!早く飯にするぞ!」
「独り占めなんて、そんな贅沢はいくら兄でも許されないからね」
「彼女の身を脅かすなら、容赦しませんよ!」
「ちょっと!止めてよね!?みんながケンカすると家が壊滅するんだから!!」

私以外みんな格闘技が好きで、そして強い。
シェンは拳闘。紅丸はシューティング。アーデルハイドは総合格闘技。ジェイフンはテコンドー。
四人が喧嘩を始めれば、大惨事にならないはずがない。
かなり個性的でどうしようもない兄達だが、私は毎日楽しく過ごしている。
そこらの兄弟より仲良しだし、だから居心地良く感じられる。大切な家族なのだ。
 
 

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