series2

□5.休息を取る
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名無しはアッシュらと共に飛行機を乗り継いで、遠路遥々アメリカまで来てしまった。と言うか、名無しが土壇場で逃げないように、彼らが連行して来たという方が正しい。
開会式は明日だが、半ば名無しのご機嫌取りのために、前日からアッシュが良いホテルを取ってくれたので、前乗りをしたのだ。

「うわーすごーい!こんなホテル初めてだよ!帰りたいと思ってたけどテンション上がるー!」

先程まで死んだ魚のような目をしていた名無しも、高級ホテルの眩さにはしゃぎだした。

「今日はゆっくりしようヨ!サロンでお茶してサ。部屋でネイルもしてあげる!」
「酒飲もうぜ!何もかも忘れてよ」
「よーし!お茶もネイルも全部やるぞ!二日酔いにならない程度に飲もう!」
「ボク未成年なんだけど」

名無しが単純な性格で良かった。二人は心底そう思う。
ホテルに入り、アッシュがチェックインをする間に、名無しとシェンはお互いのウェルカムドリンクを味見しながらわいわいやっている。
それから凄く楽しそうに、広くて豪華なロビーをうろうろ。
精神年齢が随分と低い大人二人を横目で見ながら、最年少のアッシュはため息をつくのであった。

ボーイに案内された部屋は、テレビでしか見た事がないような、豪勢なスイートルーム。
ボーイが出て行くなり、ベッドへとダイブするアラサーのシェン。
アッシュはソファに身を預け、名無しはバルコニーに出て景色を堪能している。

「そーいや名無し。お前、スーツケースに何入れてやがったんだよ?やたら重かったぞ」

いくつかあるふかふかの枕に埋れながら、名無しの方を向く。
彼女の荷物は、とにかく沢山あった。武器を所持して来たというのもあるが、女性は持ってくるものが多いのだ。
そこで、本当に身一つの手ぶらで来たシェンが、彼女のスーツケースと旅行用の少し大きい鞄を担いできてやった。

「ああ、あれね。この前持ってくるもの買いにホームセンターに行ったらさ、入り口に消火器が置いてあって、これだ!って思ったの。二つ買ってスーツケースに入れてきた」
「よく荷物検査通ったネ...」
「KOFに出るからかなぁ?」

確かにこの火の気の多い大会、消火器は有効だ。
しかしこんなもので殴られたら一溜まりもないだろうなとも思う。
どちらも、名無しが少しだけ恐ろしくなって、敵に回さないでおこうと決めるのだ。

それから暫く寛いで、名無しはアッシュにお揃いのネイルを施して貰い(お揃いは嫌だと言ったが無理やりされた)シェンを放ってお茶へと出掛けた。
ついでにショッピングも楽しみ、アッシュのお金でしこたま買い込んでホテルに戻る頃には、丁度夕食に良い時間になっていて、三人揃って贅沢にフルコースを楽しんだ。

お風呂に入ってから、シェンと共に外で買ってきたつまみと缶ビールで晩酌。
ルームサービスを頼んでもよかったのだが、彼にも彼女にもこの庶民的な感じが性に合っているのだ。
明日から試合があるので、程々にして布団に入る事にしたのだが、名無しはここでようやくある事に気付く。

「あれ?そう言えば、部屋って一部屋なの?流石にそんな事ないよね?」
「え?一部屋だヨ?わざわざお金払ってベッド三つ置いて貰ったんだもん」
「え?私、男二人と同じ部屋で寝るの?」
「今更構うこたぁねぇだろ。俺もアッシュもお前を襲う事は一切ねえから安心してろ」
「そうそう!シェンならともかく、ボクは絶対そんなコトしないから!」
「…それはそれでなんかムカつくけど、まぁ今日は許すわ」

普段なら何かしら制裁を与える所だが、明日に備える方が大事なので拳を収める。
三つ並んでいるベッドの内の、一番窓側で寝る事にした。
名無しが布団に潜り込むと同時に、アッシュが彼女の隣の、つまりは真ん中のベッドに飛び込む。
完全に出遅れたシェンは、アッシュの布団を引っぺがした。

「おい!お前あっちで寝ろよ!」
「ヤだよ〜。シェンが名無しの隣に寝たら危ないもん」
「はぁ!?なんもしねぇよ!テメェこそ何かする気だろ!」
「しないってば。名無し、シェンとボクどっちがいい?」
「雑魚寝でもしといて。何かしたら殺すから」

フライパンを枕元に置き、鋭い眼光と冷たい声色を放つ名無しに身を震わせ、シェンとアッシュは大人しくすごすごとベッドに入った。
二人共、何だかんだ言いつつ名無しの事をそういう目で見ているのである。
寝顔の写真を撮りたかったが、これは無理そうだなとシェンは思うのであった。

床に就いてから、どれくらい経っただろう。携帯の時計を見るともう2時
と表示されている。

「全然寝られん...!」

適度にはしゃいで適度に酒を飲んで、脳も体も疲れているはずなのに全く眠れる気配がない。
それにシェンのいびきがうるさくて一層に目を覚まさせるのだ。
アッシュの方に寝返りを打てば、まだあどけない寝顔が目に入る。
普段はあんな調子でも、寝ていれば可愛いものだ。少しだけ気が紛れる。
仕方が無いので携帯でネットサーフィンでもするが、何だか余計に眠れない。
結局寝入ったのは明け方も近い頃だった。

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