series2

□2.地獄を見る
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格闘家の友人を持った普通のOLが、KOFに出場する事を余儀無くされたその日から、名無しの生活は一変。それはもう地獄だった。

まず朝早く二人が迎えに来て走り込みと筋トレ。普段から面倒な事が嫌いだと言っているアッシュも、珍しく毎日欠かさず付き合ってくれた。

会社に行って眠い目をこすりながら仕事をこなすと、退社時間に彼らが迎えに来ているのだ。
否応なしに引きずられ、帰り道に公園で夜中まで走り込みと特訓が続く。
蹴りはアッシュに打撃はシェンに教え込まれ、三ヶ月もしない内に真っ正面から突っ込んでくるしかないシェンを、たまにボコボコにできるようになった。
アッシュは試合運びと駆け引きが上手いので、まだ一方的にボコボコにされる方だったが。

「早々に特訓の成果が見えてきたネ!やっぱりボクの見込みは正しかったな」
「名無し!もう一戦やろうぜ!」
「誰がやるかバーカ!」

まさに二足のわらじだったけれど、それなりにいいこともあった。
この生活と彼らにストレスを感じて割とやけ食いしているのに、確実に痩せた。
そりゃあこんな健康的な生活をしていて痩せない方がおかしいのだが、今のところ程よい筋肉が付いて引き締まっている。
これだけは感謝すべきところだ。

だからと言って生傷が絶えないので、暑くても長袖長ズボンじゃなければいけない。オシャレなんか楽しむ余裕も無かった。
アッシュに焦がされた、もう何枚目なのか数え切れないTシャツの、穴が空いてしまった部分から腹が見える。そこからシェンに殴られてできた、大きな内出血がちらりと覗く。

「いくら頑張ったって限りがあるよ...。私、一般人だもん。今みたいなちょっとした怪我じゃ済まないよ?手足から何かしら出る奴らの集まりに生身で行くなんて、真性のドMか自殺志願者だよ...」

まったく正当な意見である。
これには今まで一切名無しの言葉に耳を貸さなかったアッシュとシェンも、うーんと唸った。

「俺もアッシュも、お前にケガはさせたくねぇんだよ。だから絶対負けねぇ」
「それは分かってるけど...」
「割と名無しみたいな一般人もごくたま〜に一人二人いたりいなかったりするから大丈夫だヨ!」
「いやそれフォローになってないから!」
「え〜?シェンも一応一般人だヨ?何も出せないし」
「こんな自分の顔殴ってパワーアップするやつ、一般人とは程遠いね」
「はぁ!?お前もういっぺん言ってみろ!」

芝生の上であぐらをかいていたシェンがわめきながら立ち上がったので、名無しは座ったまま全力で彼の脚に蹴りを入れた。
体制を崩したのですぐさま立ち、教えられた通りの斧旋脚から斧旋豪腕拳まで叩き込んでやった。

「くそぅ...」
「私、シェンなら余裕で勝てる」
「身内同士でやり合ってどーすんだよッ!!」

うつ伏せになってジタバタしているシェンの上に腰を降ろして、足を組んで遠い目をしている名無しを見て、アッシュは思う。

(うーん、センスがあるのか、ただ単にシェンに容赦がないだけなのか。どちらにせよ、見てて面白いから名無しを選んで良かったナァ)

そんな何才も年下の彼の、彼女を小馬鹿にしたようなあざ笑いもつゆ知らず、名無しとシェンはまだじゃれあうのであった。

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