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気が付くと目で追っているのは、好きだと言う証拠なのだろうか。
<lesson1:いつものように>
ここ、2〜3ヶ月行き着けている店がある。特に何が美味いと言う訳でも無いし、店の雰囲気が良いと言う訳でも無い。
若干廃れている上にこじんまりしている全てが普通な、そんな店。
今日もその店に入りお決まりの席に着くと、一人の店員が水を持って歩いて来た。
「いらっしゃいませ!」
にっこりと営業スマイル。
テーブルにグラスを置くと、カランと氷の音が鳴った。
俺はほぼ毎日通っている上に同じ物しか頼んでいないので、店員はメニューを持って来ない。
つまり常連客と言う奴だろうか。
「ラーメンで宜しいですか?」
「ああ」
「かしこまりました!」
まともに顔を見ずに注文をした。
店員は伝票に何かを書き込み、一礼して厨房へと向かって行く、その背中を見つめる。
あの子の事を、俺は何も知らない。
年齢は高校生か大学生か位で、胸に付けている名札には『名字無し』と書かれている。
多分、いや、絶対にその子の名字なのだろう。何も知らない、なんて事は無かったが、結局は名字くらいしか判らない訳だ。
数分後に彼女が運んで来たラーメンの麺をすすりながら、レジに立って他の客の勘定をしている姿を一瞥した。
接客をする彼女の笑顔は、やはり、可愛いと言うか何と言うか。
話した事もない人間にそんな気持ちを抱くなんて、俺はどうかしているんだ。
笑顔に惚れたとかそんなありがちな事、起こる訳が無い。
自分の考えている事が馬鹿馬鹿しくなり、一人で自嘲の笑みを洩らした。
これからも、客と店員と言うどこにでもある関係が続くだろう。
そうに決まっている。