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□執着Auge2
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「大丈夫です。誰にでもあることですから、生理現象ですから、恥ずかしくはありません」

アーデルハイドはあやすように名無しの背中をぽんぽんと叩くが、名無しは俯いてしまって顔を上げない。そうしている間にも尿意はぐんぐんと上り続け、ついに名無しは恥を捨ててスカートの上から股間を抑えた。限界が近いのは明白である。
名無しはずっと考えていたが、尿を排出したとして、どう処理すればいいか、良い案が浮かばなかった。通勤に必要な最低限の物しか持っていない。着ているものは薄手のカーディガン、ブラウス、スカート。鞄にする?カーディガンに吸収させる?そうしてしまうと、中身は帰る時にどうすればいい。どれを取っても、後の事を考えると手段がなくなってしまう。
名無しの頬を伝って下に落ちる涙を見て、アーデルハイドは聞かずとも、彼女の我慢がそうは持たないと悟る。そして思い出す。この事態を打開するいい物があったと。

「名無しさん。恥ずかしいかもしれませんが、これを」

革のビジネスバッグから、名無しと同じように残業中に飲んで後で捨てようとしていた400mlのボトル缶コーヒーの空き缶を取り出した。ハッとした名無しは藁にもすがる思いで手を伸ばすが、名無しの手から逃げるようにするりと引き抜かれた。

「慌ててはいけません。ちゃんと、零さないようにできますか?」
「え…?で、できます!」
「尿道口がどこか、正確に分かっているのですか?」

アーデルハイドが発した生々しい言葉に目を見張る。
分かると即答したいところだが、そんな場所、普段気にも止めたことがないのに気付く。多分ここらへんというのは分かるが、正確にと言われると途端に自信が無くなる。名無しが答えないのを見ると、アーデルハイドは続けた。

「この缶は飲み口が広いとはいえ、万が一にでも零してしまったら、これから来るエンジニアの方にも知られてしまいます。それに、エレベーターをクリーニングすることになったら…業者が来るのは月曜日でしょうか。社の人間にも噂になってしまうかも知れません」

アーデルハイドの言うことは正しくて、名無しの頭は真っ白になり混乱した。
健康診断の採尿でも、場所がずれて紙コップに入らず、手にかかったりすることがままある。この缶ボトルより一回りも二回りも口が広い紙コップですら失敗するのに、正確にできると胸を張って言えるのだろうか。少しでも零したら皆が知るところになってしまう。どうすればいい。すがるような目でアーデルハイドを見つめた。

「私にお手伝いさせて下さい」

視線を合わせながら顔を寄せて、囁くように、名無しの耳元で言った。

「む、無理…無理です」
「どうして無理なのですか」
「そんな、だって」
「あなたの力になれるのは私しかいないのですよ」
「でも、手伝うって」
「その意味を理解していない訳ではないでしょう?」

思考が追いつかないだけでちゃんと理解はしている。
つまりアーデルハイドが、名無しの秘所を見て正確に缶ボトルを当てる。アーデルハイドが見ている前で放尿する。肉体関係がある恋人であっても恥ずかしいと思うような行為を、ただの会社の人間とするということ。

「でもっ防犯カメラに映ったりとか」
「心配ありません。このエレベーターにカメラはないので」
「ほんとう、ですか」
「ええ。私が名無しさんの恥ずかしい姿を誰かに見せると思いますか?」
「………」

ごくりと、名無しが唾を飲み込む音がこの密室に響く。
この会社の子息であるアーデルハイドなら、社屋の防犯の細部まで知っていても何ら不思議はない。紳士で、気遣いができて優しいアーデルハイドが嘘を言うだろうか。今時のエレベーターに防犯カメラが付いてないだなんて有り得るのかという疑問が頭を過ぎるが、最早正確な判断がつかない程、名無しの頭には「漏れそう」の文字しかない。

「それにあなたには、もう悩んでいる暇などないはずです」

名無しの思考を手に取るように、アーデルハイドは少し膝を折ってミディ丈のスカートの裾に手を掛け、たくし上げながら脚をなぞる。力を込めて合わせている太ももが露出される。
名無しは抵抗しない。
ゆるゆると、脚を撫で上げながらスカートをウエストまで捲った。

「優しく触れないと破いてしまいそうですね。勝手がわからないもので、無作法をしたらすみません」

スカートの裾を名無しに持たせ、求婚でもするかのようにうやうやしく跪いて、宣言通りに優しくゆっくりとストッキングを下げていく。靴を脱がせて爪先から引き抜くと、アーデルハイドは次に最後の砦となった下着に指を引っ掛ける。が、名無しが慌ててその手を強く握って制した。この状況に、男性に下着を脱がされるということに名無しの下半身は卑しくも疼いてしまっている。

「自分で…じぶんで、脱ぎます」
「屈むとよろしくありませんよ。私に任せてはくれないのですか?」
「待って!まっ…!」
「恥じらうあなたも可愛らしいですが…」

アーデルハイドの手が下腹部へ伸び、膀胱の辺りを慈しむようにそっと撫でる。何往復かした後、柔らかい肉の感触を楽しみながらやんわりと押した。恥じらいで少し気が紛れていた尿意が跳ね上がる。

「っ!分かりましたからっ!やめて…!」

必死の肯定を受け取って、名残惜しそうに腹をひと撫でしてから下着のゴムに指をくぐらせる。

「脚を開いて…そう。いい子ですね」

言われるがままに横に一歩、おずおずと足を動かす。何の引っかかりもないのに、アーデルハイドは勿体ぶるようにじっくりと恥部を露出させた。ストッキングと同じように全て足から抜き取ると、律儀に折り畳んで鞄の上に置き、下から秘所を覗き込む。

「暗くてよく見えません。座れますか?」

名無しは壁に背を預けてゆっくり座った。閉じてしまった脚を撫でられる。言われなくとも「開け」の合図だと分かるが、頭の先から足の先まで完璧を詰め込んだような、貴公子そのもののアーデルハイドに、自身のみじめったらしい姿をあっさりと見せられはしない。最後の抵抗として中々脚を開こうとしない名無しに、アーデルハイドは左手首につけられた腕時計を見やる。
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