series

□MIA
1ページ/1ページ


「名無しー!」

アッシュ・クリムゾンが、チャイムを鳴らすでもなくノックをするでもなく、勝手にずかずかと名無しの家に上がり込んできた。

「いい加減ピンポン鳴らすの覚えて欲しいな」
「ゴメン、ゴメン。早く名無しに知らせたかったんダ!」

彼の図々しさに不機嫌そうな顔をしている名無しを尻目に、アッシュはまたもや持っていた鞄から一本のゲームソフトを取り出し、名無しに手渡す。

「あ、マキシマムインパクト」
「そう!巷で噂のマキシマムインパクトにボクも出たんだ!」
「今回の裏パケは…と。うわあ微妙!もうちょっとメイクとかで何とかならなかったの?露骨にブサイクだよ。生で見るとそんなに悪くは無いんだけどな…写真写りが悪いね。って言うか表も結構酷いね。この顔笑える!」
「…ブサイクで、ごめんネ」
「まあ顔は選べないからね。しょうがないよ」
「………うん」
「何はともあれ、早速やってみようか!実際に動かすとカッコイイかもよ?」
「うん!!!」

名無しはもう常に据え置いてあるゲーム機にソフトをセットし、電源をつける。
練習モードを選んで、キャラクターは勿論アッシュを選択した。
戦闘画面に切り替わり、取りあえずはと技表を開く。

「あ、技増えてるんだね」
「新技出してくれってねだられちゃってサ!仕方が無いから披露してやったんだ」
「ふうん。そう」
「興味ないの…?」
「はいはい。投げから順番にやりますか」
「うん!!」

まずは相手に近寄り、投げコマンドを入力。
するとアッシュは相手を転ばせ、頭を踏みにじる。
その上セリフは「もっと良い声で、泣いてよ!」と来た。

「…はい、ご苦労さん」

そう呟き、名無しはゲーム機の電源を消した。

「何で消すのサ!?まだ全部やってないでしょ!」
「いやいや、これは駄目でしょ。鼻水噴いちゃう」
「痛めつける僕もカッコイイでしょ!?」
「本当にそう思ってるの?私は、アッシュはブサイクでも性格は良いと思ってた」
「………名無し…」
「見損なったよ。あんな事してるなんて。もう会いたくない」
「名無し待って!もうしない…もうしないヨ!」

背を向ける名無しを後ろから抱きしめ、涙を流すアッシュ。
何処にも行かないでくれと懇願した。

「あんな技はもう使わないから!」
「本当に?」
「うん…!」
「しっかし笑えたわ!いい声で泣いてよって…ブサイクが言っちゃって!」
「…………」

名無しの爆笑と、アッシュの涙と共に今日も一日が過ぎてゆく。
この後、マキシマムインパクトがプラスチックゴミの日に捨てられたのは、言うまでもない。


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ