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□XIII
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「名無し、また見てるの?」

リビングでパソコンとにらめっこしている名無しを見て、アッシュは言った。
彼が出演した格闘ゲームTHE KING OF FIGHTHERS XIIが発売されてから二年、名無しは毎日のようにその公式サイトを見ている。
理由は前回、本社に電話をかけて訴えたにも関わらず、何事も無かったようにゲームが発売されてしまったから。
名無し曰く、いつかサイトに謝罪文が掲載されるから毎日見て確認している、ということらしい。

「それがさ、アッシュ言ってたでしょ?KOF XIIIが出るから収録に行ってるって」
「うん。もう後は調整だけみたいだヨ!」
「公式ホームページが出来てたの今知った」
「えっ!?ボク相当前に言ったのに聞いて無かったんだネ...」
「ごめんね。XIIの件でいっぱいいっぱいで」

アッシュは彼女の頭を優しく撫で、隣に座ってパソコンを覗き込む。

「トップにアッシュはいないんだね」
「フフ!コレがボクだよ!」

ニヤニヤと笑いながらアッシュは一人の男を指す。
その男は、確かに服がアッシュとお揃いで、髪型はお風呂上がりのアッシュそのものだ。少し大人びた顔をしているが。

「まぁボクの先祖って設定なんだけど、一人二役やってくれって言われちゃってサ。ちょっとアレな性格なんだけどネ」
「へぇ!」
「こっちも見てヨ、名無し」

出場キャラクターのリンクをクリックして開くと、アッシュはモノクロで描かれた自身を名無しに見せた。

「みんなカラーで描かれてるのに、アッシュは白黒なの?」
「違うよぉ!一応カラーだよぉ!実は一人三役ってヤツでさ、こっちのはダークっていうか?まぁ乗っ取られてるって設定なんだケド、人気者は疲れるよネ!」

どうだと言わんばかりの表情で、鼻息を荒くしてまくし立てる。
それぞれ、三者三様の自分。やはり一番は通常の自分だが、どれを取っても自信があるのだ。

「これと、さっきのお風呂上がりの方がかっこいいね!謝罪は無かったけど、私のあの意見が反映されたのかな?」
「......え?」
「かっこいい路線に戻れて安心した!」
「ちょ、ちょっと待ってヨ!こっちに普通のボクもいるんだって!」

名無しの無情な言葉に、慌てて
ノーマルアッシュのページを開いて見せる。
だが名無しは先程とは打って変わって、渋い表情になってしまった。

「うーん。これはまだオカマに走ってるなぁ」

溜息まじりのダメ出しに、アッシュの目の前は絶望に染まる。
自分でも気づかない内に、一筋の涙が頬を伝っていた。

「アッシュ?」
「あ...あれ?なんで涙が出ちゃうんだろう...」

名無しは彼の涙を拭い、心配そうに顔を覗き込む。

「大丈夫?」
「アハハ、ボクは...」
「アッシュ」
「ボクは、名無しにありのままのボクを愛して欲しいのに...」
「私は、アッシュの全てを愛してるよ?」
「ホント?じゃあ、KOFXIIIでは絶対にノーマルなボクしか使わないって約束してヨ?」
「え?それは無理だよ。PS3もXBOXも家にないから」
「.........」
「っていうか、ずっと思ってたけどアッシュXIからちょくちょく整形してるよね!?」
「!?!?」

名無しの爆笑と、アッシュの涙と共に今日も一日が過ぎてゆく。
この後、PS3とXBOXが揃って購入されていて、頼んで作らせたのであろう、血の螺旋に狂うアッシュと斎祀が使用不能の特別仕様なKOFXIIIが置いてあったのは、言うまでもない。


 

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