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□XI
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「名無しー!」

アッシュ・クリムゾンが、チャイムを鳴らすでもなくノックをするでもなく、勝手にずかずかと名無しの家に上がり込んできた。

「ピンポン鳴らしてってば!」
「ゴメン、ゴメン。早く名無しに知らせたかったんダ!」

彼の図々しさに不機嫌そうな顔をしている名無しを尻目に、アッシュはまたも持っていた鞄から一本のゲームソフトを取り出し、名無しに手渡す。

「あ、またKOF?」
「そう!巷で噂のTHE KING OF FIGHTHERS XIにボクも出たんだ!」
「へぇ」
「ハッキリ言って、今回は自信作だヨ!」

アッシュは胸を張って言った。
前回の2003より質の低いものになるはずがない。そう思わせる程、あれは酷かった。

「確かに。表のパッケージはイケメンだね!」
「でしょう?まさに美少年だネ!」
「ん?うーん...美少年...うん...」

苦笑いをしてみせるが、アッシュは気に留める様子もない。
それより名無しは前回の事も相まって、パッケージの裏が気になって仕方が無かった。

「アッシュ。裏パケはやっぱり見ない方がいいよね?」
「フフ...2003は禁句だけど、もう裏パケの話は解禁だヨ」
「ということは...」
「思う存分、穴が空く程見ればいいヨ!」

その言葉に名無しは恐る恐るケースを裏返す。
目に飛び込んで来たのは、凄く人を見下したような顔をしているが、端正に描かれたアッシュであった。

「わぁ...!なんだか腹立つ顔してるけど本物よりイケメンだ!」
「ホラ名無し、説明書も見て」

差し出された説明書の裏表紙には、少し爬虫類寄りの顔をしたアッシュがいる。

「ちょっと人間から外れてるけど、中々だね。あ、でもやっぱりアッシュのお友達のシェン・ウーの方がかっこいいなぁ」
「ちょっと!ボクだけを見て!」
「ごめんって!そろそろゲームの方もやってみようよ」

名無しはもう常に据え置いてあるゲーム機にソフトをセットし、電源をつける。
とりあえずはと練習モードを選んでみると、キャラクター選択画面に素早く切り替わった。
その瞬間にアッシュの顔が左上部に映し出される。

「あ...」
「名無し?どうしたの?」
「なんか極悪な顔してない?」
「ご、極悪!?!?」
「うん。爬虫類界のチンピラって感じ」

彼女は画面を指さして、腹を抱えて笑う。
自分で言った「爬虫類界のチンピラ」は言い得て妙だと。

「...名無しは、やっぱりボクの事を手放しで褒めてはくれないんだネ」

アッシュは今にも泣き出しそうな顔をして肩を落とす。
それを見て悪い事を言った気分になり、名無しはアッシュの頬に手を添えた。

「ごめんね、アッシュ」
「もう、爬虫類って言わないで」
「うーん、気を抜いて爬虫類になっちゃうアッシュも悪いし。詰めが甘いからこうなるんだよ?」
「.........」

名無しの爆笑と、アッシュの涙と共に今日も一日が過ぎてゆく。
この後、KOFXIのディスクだけ捨てられたのは、言うまでもない。

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