series
□2003
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「名無しー!」
アッシュ・クリムゾンが、チャイムを鳴らすでもなくノックをするでもなく、勝手にずかずかと名無しの家へと上がり込んできた。
「ピンポンくらい鳴らしてよ!」
「ゴメン、ゴメン。早く名無しに知らせたかったんだ!」
彼の図々しさに少しだけ不機嫌そうな顔をしている名無しを尻目に、アッシュは持っていた鞄から一本のゲームソフトを取り出し、名無しに手渡す。
「あ、KOFの新作?」
「そう!この前ボクが出たTHE KING OF FIGHTERS2003が早くもゲームになったんだヨ!」
「そうなんだ。じゃあ、早速やってみようかな」
名無しはもう常に据え置いてあるゲーム機にソフトをセットし、電源をつける。
暫くしてオープニングが流れ始め、アッシュの顔が画面に映し出された。
「あー…まあまあな顔で描かれてるじゃない」
「でしょ!?ほら、パッケージも…」
「うん、まあまあな顔で描かれてるね。アッシュのお友達のシェン・ウーの方がずっとイケメンだけど」
「彼氏の前でそんな事言うなんて、名無しはヒドすぎるヨ」
「ごめんって」
名無しは軽く謝りながら、カーペットの上に放置されていたゲームのケースを手に取り、何気なくパッケージの裏面に目をやった。
その瞬間、彼女に衝撃が走る。
「キモ!!!」
「……??…あぁああ!?」
「キモッ!うわっ、ブサ!!」
「ダメ!裏面は見ちゃダメだってば!」
「キモッ!キモ!何これ気持ち悪い!」
「ヒドイ!名無しヒドイヨ!」
パッケージの裏には、ニヤリと笑った気持ち悪いにも程があるようなアッシュが描かれていた。
とても不愉快な顔をしているのに唇だけはわざとらしくツヤツヤで、見た者は皆一様に叫びの声を上げてしまうだろう。
「でも流石にこれはやりすぎだね。本物はこうも悪くは無いと思うんだけどな。ブサメンだけど」
「名無し…ボクは名無しのコト好きなのに、名無しはボクのコト嫌いなの?」
消え入りそうな声を発するアッシュの目には涙が溜まっていて、今にも溢れてしまいそうだ。
名無しはそれに気付いて、アッシュの手を優しく握る。
「アッシュ…大好きだよ?」
「本当?じゃあもう、キモいなんて言わないでね?」
「あ、うん。……ごめん、無理。この裏パケはやばいわ」
「……………」
名無しの爆笑と、アッシュの涙と共に今日も一日が過ぎてゆく。
この後、アッシュの手によってパッケージの裏の絵が油性ペンで塗りつぶされていたのは、言うまでもない。