series
□【4】不良や酔っぱらいに絡まれてピンチのとき、突然現れて救ってくれる
1ページ/1ページ
友達に連れられて、初めてクラブと言う所に来た。
その日はちょうど周年パーティーをやっていて、若干ナードな感じのイベントで初めて来た名無しにも居心地が良かった。
皆がしっかり音楽を聴きに来ている、という感じもいい。
友達が楽しそうに踊っているのを、名無しは少し離れた所にあるテーブルから見ていた。
飲み物を口に含んで音楽に浸ろうとすると、赤いTシャツを着た男が一人、絡んで来た。
「キミ可愛いね。一緒に踊ろうよ!」
名無しは、一発で「迷惑です」とわかる顔をしてみせるが、男は中々撤退しない。
友達の所へ行こうとするのを遮って話し掛けたり、やたら触ろうとしてくる。
さすがに気持ち悪く、気の弱い名無しの堪忍袋の緒が切れた。
勇気を振り絞って声を荒げる。
「触るのはやめて下さい」
「いいじゃん。少しくらい」
ニヤニヤ笑うだけで、赤Tシャツは全然止める気配がない。
必死の抵抗は虚しく散ってしまった。
名無しは耐えられず、とうとう外に出た。
ここのクラブは外が庭のようになっていて、座ってお酒を飲んだりする事が出来るのだ。
名無しが休んでいると、なんとまあ、そのクソナンパ野郎が外まで付いて来たではないか。
「ねえ?これじゃオレ、すっごくたちの悪いしつこい男みたいに見られるじゃん?」
「すみません。私、彼氏いるから困ります」
ここまで言ったら引き下がるだろうと思ったら、やはりこのクソ野郎、空気の読めなさがただ者ではなかった。
「じゃあ友だちになろうよ!友だちなら良いでしょ?」
「すみません!本当にもうこれ以上お話はできません!!」
「電話番号教えてよ!お願い!」
「嫌です!本当にごめんなさい!来ないで下さい!」
腕を握られ、名無しは逃げ出す事が出来ない。
振り払おうとするも男の腕力にかなう訳がなく、あっと言う間に両手を握られて拘束されてしまった。
この様子を見て、何かおかしいぞと周りが少しざわつき始めた。
感じ取った一人の大柄な男が、二人に近付く。
「おい。よしてやれ」
ピンク色が鮮やかなシャツを羽織った金髪の男が、クソ野郎の肩に手をかけた。
「この子は俺が先に見つけたんだ。邪魔すんな!ねえ、アドレスだけでも良いからさ」
「困ります!助けて下さい…!」
今にも泣き出しそうな名無しに懇願され、男は頭を掻いた。
「嬢ちゃん、ちょっと目ェ瞑ってろ」
「え?あ、はい」
ぎゅっと閉じられた事を確認して、クソ野郎を名無しから引き離し、瞬時にクソ野郎の頭に激拳を食らわせた。
赤Tシャツナンパ野郎は物凄い勢いで吹き飛び、観葉植物やら椅子やらを巻き込んで倒れている。
衝撃音を聞いて目を開け、そちらを見ようとする名無しを、男が手で制した。
「見ない方が良いぜ。ちょっとやりすぎた」
「あ、ありがとうございます」
「気にすんな。じゃあな」
テーブルに置いてあったビールを取り、背を向けた彼を呼び止めた。
「待って下さい!あなたは…」
「名乗る程のモンじゃねえよ」
金髪にピンクのシャツ。そしてこの喧嘩の強さ。名無しは、この男の噂をよく聞いていた。
誰もが恐れる、かの有名な男に違いないと確信した。
「あなたは、悪い奴のドタマに激拳をぶち込む、上海のなまはげ的な存在の人ですよね!?」
「あぁ!?」
男は思わずコケそうになったが、何とか踏ん張った。
「誰がなまはげだ!俺はシェン・ウーだ。覚えとけ」
「シェン・ウー…」
「間違えるんじゃねえぞ」
「はい!」
「しゃあねぇな。お前、危なっかしいから側にいてやるよ。行くぞ」
「やったー!」
仲良く室内に戻る二人を、一連の騒動をずっと見ていた人達はあたたかい目で見守っている。
ただ、ナンパ野郎だけは額から血を流しながら、気に食わないとでも言いたげな顔をしていた。