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□【1】朝、遅刻しそうになって走っていたら曲がり角で人とぶつかる
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「遅刻遅刻…!」

朝起きたら8時をとうにまわっていて、始業時間まで、あと20分しか無かった。
歯を磨いて顔を洗って、制服に着替えるまでを5分で済ませた。
学校まで歩いて15分。名無しは焼いていない食パンをくわえて、通学路を韋駄天の如く疾走していた。
もうすぐ校門が見える。名無しがラストスパートをかけようとすると、脇道から歩行者が飛び出て来た。

「んなっ!」

名無しは急に止まれない。身を交わせずにぶつかってしまい、その拍子に尻餅をついた。

「あいたた…どこ見てんのよ!」
「それはこっちのセリフだコノヤ…ん?なんだ、女の子か」

学生服を着た男は、ぶつかった相手が女だと言うことを確認すると、スッと手を差し出した。
名無しはその手を払いのけ、相手を睨み付けてから自分で立ち上がった。

「中々勝ち気だね。気に入った」
「お前と遊んでるヒマはないんだよ!」

あと3分で席に着かなければ遅刻扱いだ。
名無しは男子生徒を押しのけ、走り抜けた。

「ふー‥」

額の汗を拭い、名無しは脱力して机に突っ伏した。
何とか1分前に到着する事が出来たので遅刻は免れた。

チャイムの音を聞きながら、先程ぶつかった男の事を思い出す。
見慣れない制服だったので、ここら辺の学校ではないだろう。隣の県だろうか。
少し可笑しな髪型をしていただけで、あとは普通の人だった。

「はい席に着いてー。室長、号令」

担任教師が声を掛けたので、生徒達は席に着く。

「きりーつ。礼」

室長の号令で立ち上がって、軽く頭を下げて着席する。

「今日はこのクラスに仲間が増えます。ヨンソン君入って」
 
教室中にざわめきが広がった。
前のドアを開けて入室した男子生徒は、高身長で、中々顔が良くて、女の子達が感嘆の声を上げた。
先生が黒板に彼の名前を書いて、彼に挨拶をするように促す。

「徐竜誠です。よろしくお願いします」

爽やかに笑うヨンソンに黄色い声が上がる中、名無しは彼に見覚えがあることに気付いた。同時に、彼が朝ぶつかった男だと言うことにも気付き、思わず小さく叫び声を上げてしまった。

「では、ヨンソン君の席は…名無しの隣が空いてるな。名無し」
「はい…」

立ち上がって手を挙げる。ヨンソンと目が合って、彼はニヤリと笑った。
教壇からこちらに歩いて来る。名無しの隣で立ち止まり、耳元でヨンソンが囁いた。

「よろしくね。勝ち気ちゃん。恋の予感がする」
 
 
 

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