SNK

□ヤカンは私が持つ
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テコンドーの強さを世に示す為、ジェイフンは大会へと出掛けていった。
そんなジェイフンを心配しながら、名無しは絶えず大会の中継をテレビで見ている。
彼は大きな怪我も無く、順調に勝ち進んでいるようだ。

「やった!また勝った!」

相手からダウンを奪ったジェイフンは、テレビ画面の中でパチンと小気味良く指を鳴らした。
すると、可愛らしい女の子が駆けつけ、持っていたヤカンをジェイフンに手渡す。

「誰、この女」

何だ。誰だ、この女は。
そしてジェイフン、いつから指を鳴らして女の子なんぞを呼ぶキャラになったんだ。
礼儀正しく、父親のキム・カッファンと同じく正義感があり、生真面目で爽やかで謙虚な好青年ではなかったのか。
私と言う愛しい彼女がありながら、何故君は女の子を召喚しているんだ。
ジェイフンの横で拍手する女の子を見ながら、名無しはあらゆる思いを巡らせる。

「待ってろよ、ジェイフン…」

名無しは立ち上がり、受話器を掴んだ。
怒りに任せて少々乱暴に人差し指でボタンを押し、電話番号を入力する。

「あ、名無しです。お久しぶりです。実は……」

話し終えた名無しは、受話器を握り締め怪しく笑った。
いざ、セカンドサウスへ。

一方、名無しが怒っているとは知らないジェイフンは必死に戦っていた。
テコンドーの強さを世に示す為、負けられない。この試合に勝てば準決勝に出る事ができる。
渾身の鳳凰脚が相手にヒットし、ダウンを奪う。

審判の「Winnerジェイフン!」の声と共に、いつもの如く指を鳴らした。
女の子が来るはずが、ザンッという凄まじい音と共に、ジェイフンの前には見慣れた人物が着地している。

「…え?…名無し…?」
「ごきげんよう」

名無しはゆらりと立ち上がり、後ろを向くと、ヤカンを持った可愛らしい女の子が硬直していた。

「あら、可愛いお嬢さん」
「あ……ああ…」

鋭い眼光に、女の子は身震いをして立ち尽くすしかできないでいる。

「名無し!応援に来てくれたの?嬉しいなぁ!」

空気を読めないジェイフンは、満面の笑みで名無しを抱きしめた。

「名無し、次は準決勝...」
「うるさいっ!」
「えっ!?」

名無しの怒声に驚いたジェイフンは二三歩後ずさる。

「ジェイフン、何で女の子呼んでるの?」
「え、いや、これには訳が」
「問答無用!…そして、そこの可愛いお嬢さん。ジェイフンに彼女がいるって知ってたかなぁ?」
「あ、あの…」

恐れおののく2人を見て、名無しはニヤリと笑った。
そして人差し指を立てた右手を高く掲げ、叫んだ。

「そんな悪い2人にはこれだ!キム・カッファン召喚!」
「教育ぅ!!!」
「と、父さん!」
「きゃあっ!」

名無しの叫び声と共に現れたキム・カッファン。彼は悪を許さない。

「電話して呼んでおいたんだよ。ジェイフンのお父さん、お仕置きをどうぞ」
「ジェイフン…父さんは彼女がいるのに別の女の子を呼ぶような男に育てた覚えは無い!」
「これには事情が…」
「許さん!お仕置き鳳凰脚!」
「うわあ!」

父の愛ある鳳凰脚に、ジェイフンは抵抗も出来ずに倒れた。

「お見事ですお父さん!」
「次だ。君、女の子とあれど悪は容赦しない。人の彼氏にヤカンを渡しちゃ駄目だ」
「す、すみません!」
「はい鳳凰脚!」
「きゃああ!!」

少しだけ軽めの、遠慮した鳳凰脚が女の子に浴びせられる。
彼女もまた、地面に伏せった。

「ふう、正義の為に流す汗は気持ちが良いな!名無しさん!」
「そうですね、お父さん!」
「また悪が現れた時に呼んでくれ!さらばだ!」

今日も正義が勝ち、悪は敗れた。
邪魔者も消え、清々しい気分になる。

あとで準決勝まで進んだジェイフンを褒めてあげよう。
あ、しまった。これ、テレビで生放送されてるんだった。

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