SNK

□かまって
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道場の一角で、名無しは暇を持て余している。
視線の先にあるのは、ジェイフンの姿。彼は鍛錬を欠かさない。

「日頃の練習量が、常に僕を支えてくれる」らしい。
父親のキム・カッファンと同じく正義感があり、生真面目で練習熱心。
そして、爽やかで謙虚な好青年で、非公認ファンクラブのサウス・ジェイフン隊なるものもあるらしい。
彼女である名無しは気が気でなかった。

「ジェイフン、そろそろ休憩したらどうかな?」
「まだ、大丈夫」

息を切らしながら練習に励んでいる彼は、休憩する気はまだ更々無いらしい。

「頑張ってね」

そういい残し、名無しは立ち上がって道場を出ると、こちらに向かって歩いてくるドンファンと目が合った。

「何だお前、またジェイフンに追い出されたのか?」
「自分から出て来たの」
「全然かまって貰えないのに、ご苦労なこった」

人懐っこい笑顔で、名無しの頭をくしゃくしゃと掻き乱す。

「本当、毎日毎日テコンドーばっかり。全然話してくれないし」
「あいつは俺と違って真面目だからなぁ」

練習に付き合ってと言うのはジェイフンの方なのに、名無しがジェイフンに声を掛けても、先程の如く爽やかにあしらわれる。
そりゃあ練習中に声をかける方が非常識だけど、それが何ヶ月も続いているので、いささか不安になってくる。

「真面目すぎるのも考え物だよね…」
「兄貴!!」

激しい声と共に、道場からジェイフンが駆け出して来た。

「また兄貴は練習をサボって。早く道場に入って!」
「めんどくせぇよ」
「その言葉、父さんが聞いたらどう思うかな?」
「す、すいません。今行きます」

いそいそと道場に入って行くドンファンを見ながら、彼は溜め息をついた。

「さ、僕達も道場に行こうか!」
「いや、私は良いよ。どうせかまって貰えないし」
「え?」
「練習の邪魔になるし。じゃあね」

名無しが下を向いてぽつりと言うと、ジェイフンがいきなり名無しの両肩を掴む。

「邪魔とかじゃ無い!」
「いつも中途半端な返事しかしないくせに」
「そ…それは…」

ジェイフンは目線を逸らした。
それを見た名無しは肩を掴んでいる手を振り払おうとする。

「待って。…名無しに、カッコいいって、思われたかったんだ」
「……?」
「名無しが練習を見ててくれるから、カッコいいと思われたくて。つい、練習に熱が入っちゃうんだよ」

彼は照れながら小さな声でそう呟いた。

「ごめんね。名無しの気持ち考えてなくて…」
「…ううん。嬉しい」
「そ、そっか」

ジェイフンは爽やかに笑い、照れくさそうに頭をかいた。
そして名無しの手を握り、真剣な眼差しを向ける。

「これからも、僕の練習に付き合ってね」
「うん…!」

甘い雰囲気と徐々に近付いてくる彼の顔に気付き、名無しは目を閉じると、触れるだけのキスがされた。

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