SNK

□彼に召される
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名無しはただ、当てもなく歩いていた。何となく、歩いていたい気分だった。
気付けば辺りは薄暗く、人気が少ない細道に入ってしまった。

「うわ、ここどこだろう…」

途方に暮れて居ると、前から一人の男性が歩いてくる。
赤い髪を長く垂らしていて、顔は見えない。
仕方が無いので道を尋ねようかと思ったが、その男を取り巻く異常な気は、名無しにも感じ取る事が出来た。
これが狂気と言うものだろうか。
などと考えていると、赤い髪の彼はすぐ目の前まで来ていた。

足が竦み、前へ進む事も、後ろへ逃げる事も出来ない。
息を飲んで立ち止まっていると、耳元で男が囁いた。

「実に…実に素晴らしい夜だな…」
「え?」
「さあ、遠慮せずに召されろ」

男が静かに笑うと、名無しの腹から鮮血が吹き出した。
彼に切られたと判るのに、そう何秒も掛からなかった。

「な…何で…」
「刹那に死ぬ喜びを教えてやろうと思ったからだ…どうだ?」

どうだ、と聞かれても痛すぎて頭が回らない。
「何故」「どうして」などの言葉しか浮かばなかった。
血が流れ出していき、体が冷えていく。痛む腹を抑えた手を伝う血が生暖かく、気持ち悪かった。
名無しは、彼の笑顔を赤い髪から垣間見た。

「受け入れてくれるだろう?この華やかなる死を」

その低い声を聞きながら名無しはゆっくりと目を閉じる。
それは少し、心地良い気がした。

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