KOF

□KOFが始まった
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今年も THE KING OF FIGHTERS が始まった。
彼、シェン・ウーは「楽しんでくる。テレビ、ちゃんと見とけよ」と一言告げてこの家を出た。
シェンが居なくなった事でいつもより広く思える部屋で、名無しは言い付け通りにテレビを見ている。
そこにはKOFの昨日の試合の再放送が映し出されていて、丁度シェンが戦っている所だ。

画面からは黄色い声援が沢山聞こえてくる。これが聞きたくなかった。
いくらシェンが彼氏だと言っても、自分の知らない所で女の子に囲まれているかと思うと、嫌な気分になってしまうのだ。

飛び交う声にうんざりしながらテレビの電源を切り、その場で横になる。
目を閉じてシェンの事を考えていると、ふと玄関のドアが開く音がして、中に誰かが入ってきた。
上半身を起こし、慌ててその方を見ると、見慣れた人が立っている。

「お前、鍵くらい閉めとけよ。不用心だな。それと、テレビ見とけっつったろ」

帰ってくるなり文句ばかり言っているが、名無しの耳には中々入って来ない。

「……何でいるの?KOFは?」
「次は日本で試合だからよ、ついでに来たんだ。なんだぁ?嬉しくねえのか?」
「……嬉しいけど…」

その一言でシェンは満足したらしく、名無しの隣に座って頭を撫でる。
彼女はなんだかもやもやして、また寝転び、シェンとは逆の方を向いた。

「寂しかったか?」
「そんな事無いよ」
「馬鹿。寂しそうな顔して何言ってんだ」

撫でる手を強め、わしわしと髪を掻き乱す。

「止めてよ」

珍しく不機嫌そうな名無しに、シェンは手を止めて思わず顔を覗き込んだ。

「どうした?」
「どうもしてない」
「名無し」

寝転んでいる名無しを無理矢理引っ張り起こし、わざとらしく視線を外す名無しの頬に手を添えた。

「嫌だって。やめてよ」
「名無し」
「離して」
「名無し。何で拗ねてんだよ」
「拗ねてない」

離れようと抗うが、シェンの力には当たり前だが到底適わない。

「拗ねてんだろ。言わなきゃ分かんねぇよ」
「………」
「名無し」
「別に、私なんかいなくても良いでしょ」

名無しは小さく、自嘲気味に本当の思いを呟く。
シェンは悪くないのだから、言ったって無駄だとわかっているのに、言わずにはいられない。

「何でだ?」
「……可愛い子、いっぱい居るでしょ。シェンのこと応援してた」
「俺がお前以外の女に興味無いの知ってんだろ?」

勿論知っているしそう言われても不安なものは不安だ。
シェンに女心は一生かかっても分からないだろう。

「名無しが心配するような事はねえよ」
「でも…」
「デモもストもねぇ!よし、行くぞ!」

明るく笑って、名無しの手を掴んで元気良く立ち上がり、玄関へと引っ張る。

「ちょっと!どこ行くの?」
「KOF。応援してくれんだろ?俺の事」
「……行って良いの?」
「名無しが居なきゃ、やる気が出ねえからな。ただし、他の男は見んなよ?」

翌日、初めて来たKOFの会場で、名無しは誰よりも大きな声でシェンだけを応援した。

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