KOF

□ドジっ子
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名無しの家に行く途中、頼まれていた買い物を済ます為にシェンは近所のスーパーへと寄った。
何とも似合わない買い物カゴを持ち、名無しが欲しいと言っていたデオドラントスプレー置き場へと向かう。

「……色々あんだな」

今まであまり見た事が無かったので、並べられている種類の多さにシェンは戸惑う。
名無しから、メーカーや香りについては何も注文を受けて居なかったので、自分好みのものを探してみる事にした。

「石鹸の香り、か。名無しに合うかもな」

ぶつぶつと一人で呟きながら、名無しから漂う石鹸の香りを想像して顔をにやけさせる。
柑橘系の香りやらフルーツの甘い香りを思い浮かべて楽しんだが、やはり名無しには石鹸の香りだろう

デオドラントスプレーを持ち、会計を済ませて足早に名無しの家へと向かった。

「シェン、いらっしゃい!」

シェンが呼び鈴を押すと、名無しは笑顔で出迎えた。

「買い物行ってきたぞ」
「あ、有難う!」

彼女は手渡された袋の中身を取り出し、確認する。

「石鹸の匂いにしといたぞ」

にこにこと顔を綻ばせているシェンとは裏腹に、名無しの表情は固まっている。
何かまずい事でもしてしまったのかと慌てた。

「どうした?石鹸は嫌だったのか!?」
「違うよ、シェン。これ、見て」

名無しの言う通りに突き出されたスプレーを見ると、そこにはマジックで「テスター」と大きく書かれていた。

「……テスター?」

意味が分からないシェンは、首を傾ける。

「テスターとは、品定めする為の、店頭に置いてあるお試し用の見本品の事。つまり…売り物じゃないよ」
「売り物じゃないのか!?」
「店員さんに何も言われなかったんだね。凄いよ、シェン。まさかテスターを買ってくるとは…」
「い、今すぐ返してくる。待ってろ!」

シェンはテスターのデオドラントスプレーとを名無しから奪い取ると、先程のスーパーへ凄い勢いで駆けて行く。
そんな三十路前の彼を、可愛いと思わずにはいられなかった。

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